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電脳東京
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2004/07/30のBlog
[ 01:33 ] [ 電脳東京・夏 ]

宇野との電話の後すぐに中井の実家に電話をした。
先延ばししても仕方の無い話だ。


「速水です。 英一さんの保証人の友人です」

「ああ、おはようございます」


辛い。


「...お父さん、最悪の、」

「わかっとります。 
 ...速水さんの声で。 こんな時間ですし...」


受話器の向うで嗚咽を堪えている。
二の句が継げないのはわかる。
大切な長男の死だ。


「言葉もありません。 
 ただ、現実的にはご遺体の件などもあります」


ビジネスライク、か。
こういう時は周囲が落ち込んではだめだ。


「ご希望であれば、業者にご遺体を搬送させます。
 ただ恐らく、すぐに警察から解剖の要請があると思います。
 事件性が高いですから、拒否はできないでしょう」


腹に力を入れなければ、オレも言葉が
出なかった。


「取り急ぎご報告しました。 由香子さんは私も、そして
 警察も必死で捜索しています。 くれぐれも力を落とさず、
 妹さんがいつ帰ってきてもいいように待っていてください」


呻くような頷くような声が聞こえる。


「お父さん」

「はい」


搾り出すような声だった。


「一旦切りますが、何か思い出されたらいつでも
 連絡してください。 それがいまは大切なことです」

「...わかりました」

「...あの、奥様は」

「3年前に癌で逝きよったです」

「そうですか。 ...いつでも連絡をください。 由香子さんも、」

「ええ、わかっとります。 大丈夫です。
 ...ありがとうございます。 頼みます」


聞き取りづらい口調だった。
一気に憔悴している


「では、また連絡します」


手掛かりは、闇金業者と宇野、そして公安だとしたら
ルートがある。 というか貸しのある人間がいる。 

しかし、公安はその家族さえ一生仕事の内容など知らない。
情報源としては期待薄だ。

磯崎が歌舞伎町界隈で顔の効く店で嗅ぎ回っている
情報もバカにはできない。


電話が鳴った。
磯崎からだった。

 
「涼、見えてきたで。 つながってるわ。
 何人もその闇金からごっつい追い込みくらってるわ」

「そうか。 一度、挨拶に行く必要があるな」

「ほんまか」

「ああ。 やり方は多少考えるけどな」


蝉の声がうるさいことにオレはその時気が付いた。


2004/07/28のBlog
[ 00:22 ] [ 電脳東京・夏 ]


中井が事件から3日目の朝に死んだ。


数時間の眠りに就いていたオレを
磯崎が一本の電話でしっかり覚醒させてくれた。

中井は蘇生するには他の体のダメージが深すぎた。
出血も完全には止まらなかったらしい。
体が耐えきれなくなっていたのだろう。


「それからな、新宿署に捜査本部が立ったで。
 警察も参入していよいよ新宿戦争かー」

「所轄は強行班か。 本庁の係はどこだ」

「そこまではわからん」

「わかった。 宇野に聞いてみる。
 ...で、中井の実家には」

「そうなんや、行きがかり上ゆうことで、涼、おまえから
 伝えてくれへんか」

クレーム処理も仕事のうちか。
 妹の件もまだあるしな...
 ふう...わかったよ、オレが連絡する」


本庁でも人脈を手繰れば、行き着ける人間もいる。
タチが悪いのもいるが、律義な警察官もいる。

情報戦だ。
まず、所轄の責任者と本庁の係、つまり管理官が
だれか知りたいと反射的に思った。


が、磯崎からの電話を切ると、
そんな自分が嫌になった。


今日くらい可哀相な中井の冥福を祈ってやらなきゃな。

あいつが自ら悪さを働いたんじゃないってことは
あくまで勘だが、オレの中では既成事実になっている。

こういう場合、変な肩入れは禁物だが、そうでもしないと
やってられないこともある。 中井を悪者で終わらせたくない。

中井だって二十歳を過ぎたばかりだ、まだまだこれからだっていうのによ。



結局、それから目が冴えて眠ることができなかった。
隣で眠る礼美のぬくもりを感じながら、オレは何かを
体に蓄えようとしていた。

勇気。

帰ってくる場所がある、待っている人ができたことで
臆病になってやしないか。 

全身の古傷が痛み出したようにオレは何度も
深い息をした。


もう街が動き出す時間だ。
礼美が起き、コーヒーを入れてくれた。

オレは宇野の携帯に電話をした。


「中井の実家に警察から電話があったそうだ。
 あいつが死ぬ前の段階でね」


宇野は黙っていた。


「宇野さん、本庁は今回なんで絡んでるんだ。
 本庁って警視庁の刑事部だよな。 宇野さん

「速水、おまえは何を提供できる」

「中井の親父さんに随分と信用されててね。
 警察よりオレの言うことを聞くんじゃないかな」

「...表向きは刑事部だ。 捜査一課五係」

「じゃあ、裏は何なんだ」

「言わなくてもわかるだろう」

「公安か... 本庁っていうのは警察庁もか」

「何か掴んだら知らせろよ、こっちも中井の妹は
 必死に足取りを追ってる」


また、厄介な連中だ。
変にこじれさせなきゃいいが。


ともかく情報だ。
磯崎、おまえにも活躍の場を与えてやろう。
オレにはもっと情報が必要だ。

2004/07/26のBlog
[ 11:29 ] [ 電脳東京・夏 ]

試しに、弁護士の西山に中井由香子名義の借金
ないかどうか調べさせた。

本人の代理人として、借金の任意整理を受任させた。
この際細かいことは構ってられない。

個人信用情報センターなど、西山お得意の照会先に探りを
入れたところ、いくつかのことがわかった。


「どうだった」

「やっぱり、中井の妹には1000万円近い借金があるな」

「話ができそうなところか」

「大手の消費者金融もあるが、ほとんどは街金から摘んでるな」


最悪だ。 
ますます疲れる仕事になりそうだ。

ただ、それだけ街金から摘んでいれば、足跡も残しているはずだ。

だから中井の妹は姿を消している、あるいは拘束でもされて
いる可能性が高いだろう。

それは、中井が何かの鍵を握っているからかもしれない。
そもそも妹の借金の原因もだ。
その可能性は十分ある。


しかも、西山の報告によると、中井の妹のいくつもの
借金は、その後すべて闇金によって一本化された形跡もあるらしい。
金融庁ガイドラインもクソも通用しない完全な無法地帯に
入り込んでいる。

文字通り法外な連中の利率で計算すれば、元利合わせて
1000万円の借金は普通の方法では返済できない。

女なら、風俗に売られたり、借金返済まで監視が付いたり、
男なら臓器を売るか、生命保険で自らの命を代償にする場合もある。

この手のことは、ことさら歌舞伎町に限ったことではなく、
地方にも広がっていることではある。


しかし、この街はそういった危険な罠の数が桁違いだ。
地方から鼻の下を伸ばして、遊びに来て身ぐるみ剥がされる
程度だけで済むなら、まだ幸運だと思った方がいい。


オレは、その闇金業者の連絡先が記してあるメモを西山の
手から取った。


「おい、またかよ」

「ああ、まただ。 
 今回ジャングルでのゲリラ戦かもしれない」


まだ、どんな相手がどこにいるかもわからない。


「...言って聞かない奴には言う気も無いが、
 こっちからヘタに仕掛けたら、状況はどうあれ
 今度は執行猶予じゃ済まないぞ」

「そこを何とかするのが、おまえの仕事だろ。
 せいぜい連中の所業を洗っておいてくれ」

「とっ捕まっても20日間は完全黙秘だ、わかったな」


ありがとよ、西山。
今回の魔法の水はおまえがかけてくれそうだ。

オレは幾分いつもより強めにZのエンジンを吹かし込み、
虎ノ門にある西山のオフィスを後にした。


まずは、少しは眠っておきたい。


2004/07/22のBlog
[ 12:09 ] [ 電脳東京・夏 ]

「英一にはこちらで仲良かった中国人の友達が居ったとです」


嫌な予感は当たるものだ。
特に年齢を重ねれば重ねるほど。


「その友達の名前や出身地はわかりますか」

「楊、何とかと言うとりました。 出身地までは...」


それじゃ、東京で特定の「田中さん」を探すのに等しい。
やれやれだ。


「福建省っていう名前は聞いたことは無いですか」

「うーん、そう言われれば。 烏龍茶だけじゃ国では食って
 いけないとか、どうとかは...
 最近、英一も仕送りまでしてくれるようになったんで、がんばって
 くれてればいいが
と思うとったですよ」

「わかりました。 では、由香子さんの連絡先を」


中井の妹も、兄の部屋に近い中野エリアに住んでいた。

「その今津っていう人に言ったことで、まだ私が聞いて
 いないことはありますか」

「いえ、それくらいです。 東京都に行ってからのことは
 正直よくわからんのです。 お恥ずかしい話ですが」

「いえ、東京に居てもわからないことも多いですよ。
 それから中井さん、もし誰かから連絡があったら
 すぐに私か磯崎に電話してください」


また、があった。
オレはもう電話を切ってもよいかと思った。


「速水さん、息子と娘を守るには速水さんを一番信用
 しとればよいのですか」


そう来るか。


「事件であれば警察が解決するはずです」

「でも、あの口振りでは、英一も悪者の一味みたいな聞き方だったとです」


電話を切ろうとした時に、余計なことを言う親父だ。
確かにそうだろうよ。 地元所轄の刑事をよこさないないのは
警察内部でもオープンになっていない厄介な事件の証拠だ。

オレはまた何に突っ込んでいこうとしているのか
それさえまだわからないのによ。


「警察もちゃんとした操作をするはずでが、あくまで法律を遂行する立場すから。
 ただ、英一さんの味方も必要です。 それが我々です。
 何かあれば、いい弁護士も知っています。 だから、連絡は私にください」

「...はい、宜しくお願いします」


今度こそすぐに電話を切った。


ひたすら眠りたい。
そう思った。

何かが、動けと言う。
わかったよ。 

また、オレは中野に向かった。


中井の妹の部屋には、鍵はかかっていなかった。

内部は相当荒らされている。 
散乱する衣類、雑誌、新聞。
妹を連れ去った連中と、四課も既に来ているかもしれない。

三番手かよ。
三者のプレイヤーしか居ないのに。


ただ、物は散乱しているが、兄同様に余計なものはほとんど無い。
人の気配も無い。

冷蔵庫を開ける。
注射器と銀紙。

ここで覚せい剤やクラックを使ってましたよ、
と言わんばかりの光景だ。

偽装工作にしてはベタだし、本人との関係はまだ藪の中だが、
中井の妹もやばい状況に変わりはない。
冷蔵庫と部屋の様子だけはカメラに納めた。


クソ暑い部屋を出ると、また陽も暮れようとしていた。

宇野に連絡する前に、妹の周辺情報をこちらも
可能な限り持っておきたい。


オレは弁護士の西山に電話した。