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ヒメヒカゲ備忘録
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2008/07/06のBlog

アメリカ探偵作家クラブ賞受賞作2つ。

『オールド・ディック』L・A・モース著/石田善彦訳
(ハヤカワ文庫 1983年邦訳)

もうすぐ78歳、探偵稼業はとうに引退したつもりのジェイク・スパナーの前に、40年以上前に長期の刑務所暮らしに追いやった元ギャングの大物サル・ピッコルが現れる。誘拐された孫の身代金受け渡しに同行してほしいというのだ。そして、受け渡し当日、老いぼれ2人は何者かに殴られ金を奪われてしまう…。


ハードボイルド小説全盛期の探偵が、今も生き続けていて、相変わらず一匹狼のわびしい暮らしをしていたとしたら……。これが意外と様になっている。そりゃあ少し走っただけで息は切れるし、疲れるのも早い。集中力や視力も衰えてはいるんだろうけど、利点もある。老いぼれが何かを嗅ぎ回ってうろついても、誰も気にとめないこと。何事に対しても達観しているようなところも、年寄りゆえに説得力があるのだ。

ロサンジェルスに住むジェイクは、シャツの胸元をはだけた格好で、毎日何時間も公園のベンチに座り、しなびた体に太陽の光を浴びせる。傷痕のある胸がセクシーだとお世辞を言われなくなって早30年。暇つぶしにペーパーバックの卑猥な三文小説を読んで妄想をかきたててみるが、最後に勃起したのは5年以上前。痛風の気があり、時に不眠症に悩まされる。しかし、そんなことより問題は財政状態。少なくともまだ万引きしたり、キャットフードを食べるところまでは至っていないが、早いところ死なないと無一文になってしまう……。そんなジェイク爺さんのもとに、古なじみが仕事を持ち込んでくるわけです。かつては敵対関係にあったとはいえ、背に腹は代えられない。それに同じ老いぼれが困って助けを求めているのだ。
「クソッ、なんてこった」とつぶやきながらも、過酷な拷問に耐えたり、銃を持った相手から走って逃げ回ったり……。いつ心臓がやられてポックリいっても不思議じゃない状況が、逆にユーモアになってるのがおかしい。作者モースは30代半ばでこの小説を書いているので、実際にジェイクと同世代の人たちが読んでどういう反応をするかは分かりませんが。
介護施設に入れられているジェイクの古い友人の元警官も、いい味を添えていた。そしてラストがまた、老い先短い者らしい決着の付け方というか・・・爽やかだけど、まだまだ因縁の関係が続きそうな予感もあり、ニヤニヤしながら読み終えました。面白かったです。


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『古い骨』アーロン・エルキンズ著/青木久惠訳
(ハヤカワ文庫 1989年邦訳)

北フランス、モン・サン・ミッシェル湾で貝拾いをしていた老人が、潮が満ちるのに気づかず溺れ死ぬ。その老人はレジスタンスの英雄として知られた富豪で、一人で暮らす北フランスの館に、理由も告げずに親族を呼び寄せた矢先の事故だった。そして数日後、遺書の内容で親族がもめるさなか、館の地下室から第二次大戦中のものと思われる人骨が発見される…。


“スケルトン探偵”との異名をもつ人類学者ギデオン・オリヴァー・シリーズの中で、最高傑作といわれる巻。オリヴァーはワシントン大学の教授だが、このシリーズは毎回舞台を変え、観光小説としての楽しみもあるとのこと。
前から人気があるシリーズということは知っていました。骨をもとに推理するというので、もっと見た目からして変わり者の探偵が主人公の、陰鬱な話かと思っていたらまったく違い、コージー・ミステリの味わいもある内容だった。抜群に面白かったのはプロローグ。これはシリーズの中では4作目。とりあえず5作目も読んでみよう。



2008/07/05のBlog

カナダのカルガリーが舞台。笑えるハードボイルド探偵小説。

『揺さぶり』マイク・ハリソン著/棚橋志行訳
(ヴィレッジブックス 2008年邦訳)

私立探偵のエディ・ダンサーは、派手なタトゥーを入れたバイク乗りの男から「銀行をだまして得た金を持ち逃げした相棒を探してほしい」との依頼を受ける。それだけでも迷惑な話なのに、翌日には、その相棒が妻を伴い、まったく同じ依頼をしに訪れる…。


邦題の「揺さぶり」とはそういう意味もあったのか! 恐ろしい! コーラを使ってそんなことができるのも初めて知った。やばすぎ! この小説はある種の人々に読ませては危険! 利用されたら大変です!
でも、楽しい。さまざまな悪党が登場するけれど、義理にあつく愛嬌を忘れない向こう見ずな主人公探偵の性格に引かれ、頼もしい助っ人へと変わっていく者もいる。おバカ系です。続編を大いに期待します。



スウェーデンの人気ミステリ作家最新作。

『タンゴステップ』ヘニング・マンケル著/柳沢由美子訳
(創元推理文庫 2008年邦訳)

若くして舌ガン宣告を受けた警官リンドマンは、その直後に、森の中の一軒家で隠居生活を送っていた先輩警官が何者かに惨殺されたことを新聞記事で知る。病気への不安を、治療に入る前の休暇を使って事件の独自調査に費やすことで紛らわせようとするリンドマンが注目したのは、先輩刑事が常に何かにおびえているように見えたことと、彼の過去に空白の数年間があることだった…。


ヘニング・マンケルのミステリ小説は、人種差別問題とかグローバリズムの弊害などを浮き彫りにするものが多い。本作では、敗戦後のドイツでナチス戦犯が処刑される場面をプロローグにもってきて、現代も形を変えたとはいえ、外国人労働者の増加などによってヨーロッパ中で再び広がりをみせるナチズム思想の根深さを題材としている。
スウェーデンは基本的にはドイツと同じ文化圏下にあり、戦前戦中は東欧諸国と同じくボリシェヴィキへの抵抗からナチスを信奉した人が多かったのですね。実際にドイツへ渡り、親衛隊に志願した者もけっこういたことが、現代のスウェーデン人も知らない事実として小説の中で語られています。架空のネオナチ組織も登場するのだけど、ヒトラーの描いた理想主義が戦後も一度も死に絶えることなく、ごく普通の人々の間で確信的に受け継がれていることとして描かれているのが不気味といえば不気味です。

前作のクルト・ヴァランダー・シリーズ『目くらましの道』が、これまでのシリーズ最高傑作と思える出来だったので、続いて書かれたこの小説はノン・シリーズながらとても期待していました。けれど、本作はマンケルの社会派としての性格が強く出過ぎたのか、ミステリ小説としての面白さはいまいちだったかなあ…。いろいろとバランスが悪いように感じた。
事件と主人公の個人的な思い出の絡ませ方とか、犯人がスウェーデンに居続ける理由付けが、少し強引に思った。また、元警官殺しの動機となった出来事というのが、それまで語られてきた犯人の執念や残忍な殺人方法の割に、あっさり描かれているところ。そして、小説後半に残されたもう一つの殺人事件の真相も、解明されてみれば案外しょぼい動機というか、意外性が少なくて盛り上がりに欠けた。しかし、この娯楽小説としての物足りなさはヘニング・マンケルの良識のなせるところかもしれない。

ヴァランダー・シリーズ読者へのサービスとしては、『目くらましの道』の中で殺される元法務大臣の兄という人物が登場。あと、あとがきにあったけど、マンケルの現在の妻はイングマル・ベルイマンの娘だそう。夫婦そろって有名人なのね。


2008/06/30のBlog
[ 00:21 ] [ 映画 ]

「今夜、列車は走る」を観たときに、アルゼンチンの映画だったらこれが面白いよとすすめられてレンタル。やはり突然職をなくしてしまうおじさんの話。

「ボンボン」(2004年 アルゼンチン)
★★★★☆

初老の男フアン・ビジェガスは、20年もの間まじめに働いてきたガソリンスタンドを、オーナーが代わったとたんクビにされてしまう。再就職先も見つからず、住まいもなくしたフアンは、娘夫婦の家で肩身の狭い日々を送っていた。そんなある日、人助けをしたフアンは、そのお礼として大きな白い犬“ボンボン”をなかば強引に贈られてしまう。家に戻ると案の定、家族の大反対が待っていた。仕方なく、ボンボンを車の助手席に乗せ、あてのない旅に出るフアン…。
(allcinema ONLINEより)


よかったよおー。こういうの、大好き。仕事も家もなくても希望がある! それだけで幸せな気分にさせてくれる映画。「わらしべ長者」を思わせつつ、そうはすんなり事が運ばない。ひねりのきかせ具合が面白かった。

空高く日差しは強いのに、いつも冷たい強風が吹きつけているような荒涼とした大地、パタゴニアの田舎町が舞台。ここも雇用不況が深刻なようで、主人公のフアンが身を寄せる娘夫婦の家も、娘は働いているが夫は失業中。フアンは手作りのナイフを売り歩いて、生計の足しにしようとするが、まったく売れない。このフアンというのが小柄で物静か。いわゆる競争社会の中ではとことん影の薄い男。でも、困っている人は放っておけない性格で、それがきっかけで血統書付きのボンボンをもらい受ける。そして、ボンボンと一緒に行動するようになってからは、周囲がフアンを放っておかなくなり、儲け話を持ちかけてくるようになる。
その変化を、人のいいファンはありのまま受け入れながらも、何か場違いなところにいる落ち着かなさを感じているようにも見える。特にドッグトレーナーとの関係は、見ていてなんだかハラハラした。悪い人じゃないかもしれないけど、フアンとは性格も価値観も違いすぎる。ボンボンもそれを分かっていたのだろうか…。あれはボンボンがひと芝居打ったとしか思えませんが(笑)。ボンボンと再会したときのフアンに笑顔が最高だった。あと、この映画の後味の良さは、クラブ歌手の女性のひとことが大きく影響している。

主人公のフアンをはじめ、出演俳優のほとんどが素人だという。へたをすると犬のボンボンのほうが演技経験があったりしないか。でも、素人劇という感じがまったくないのがすごい。むしろ、物静かでお人好しのフアンをプロの俳優がやっていたら、あざとさのようなものが鼻をつく映画になっていたかもしれない。原題は「EL PERRO(犬)」。


2008/06/29のBlog

面白いと言われて公開終了ぎりぎりに観に行った。
こ、これは……とんだおバカ映画だ(笑)。

「シューテム・アップ」(2007年 米)
★★★★☆

深夜のニューヨーク。銃をもった男に追われる妊婦を目撃した男は、放っておけず助けようとするが、そのまま銃撃戦に巻き込まれる。そして、妊婦は赤ん坊を産み落とした直後に流れ弾に当たって死亡。男はやむをえず赤ん坊を抱え上げ、赤ん坊の命を狙う謎のギャング団から逃亡をはかる…。


いつもはシリアス系の役が多い豪華キャストを揃え、こういう銃撃戦シーンがあったら面白いというの次々と、リアリティ無視でそのままやっちゃった感じが潔くて、痛快! 2万5千発もの銃弾が放たれたらしい。内容は不謹慎なほどに軽いんだけど、とにかくカッコよすぎて笑える。

銃の腕前は100発100中。片手に主食のニンジン、片手におくるみの赤ちゃんを抱えて追ってくる悪に反撃するクライブ・オーウェンが最高にいかす! でも、性格は若干「シリアル・ママ」入ってるかい?(笑) 対するギャング団のボスであるポール・ジアマッティは、元FBIのインテリで、プロファイリングをしたら100発100中を自負。でも、死んだ妊婦の裸のおっぱいに欲情しそうになる変態野郎だったりして。モニカ・ベルッチに関しては、娼婦役というだけで存在感十分でしょう。熟れた豊満な肉体をあらわにして、娼婦にして聖母を演じる。最高にはまり役。

オーウェンの無精髭の生えたたるんだ頬のアップとか、ベルッチの熟れすぎた肉体が、渋い大人の魅力として見えるのは、撮影に香港映画出身の人を使っているせいもあるのでしょうか。他のハリウッド・アクション映画の映像とはひと味違う感じです。そして、大人キャストだけでなく、赤ん坊までもが一癖ありそうな顔つきの赤ちゃんでした。ヘビメタを聴いたり銃を見ると泣き止んで笑う赤ちゃんですからね、ただ可愛いだけではダメなんですよね。

おバカなアクション・コメディとしては「パニッシャー」、渋いキャスティングや音楽使いなどのセンスは「ペイ・バック」を思い出したけど、それらともちょっと違う。監督はミュージックビデオ辺りが出身の若い人だと想像していたけれど、写真で見る限りはそうでもない。


2008/06/24のBlog

土曜日に映画館。19世紀末、ハプスブルグ帝国末期のウィーンを舞台にしたミステリー。

「幻影師アイゼンハイム」(2006年 アメリカ/チェコ)
★★★☆

伯爵令嬢との幼い恋を身分違いゆえに引き裂かれたアイゼンハイムは、傷心のままマジシャンの腕を磨くべく東方への長い旅に出る。やがて、天才と評される幻影師としてウィーンに凱旋したアイゼンハイム(エドワード・ノートン)は、ショーを観覧に来ていたかつての恋人と再会を果たすが、彼女は皇太子レオポルドの婚約者となっていた…。

(大枠ネタバレ)
原作はスティーヴン・ミルハウザーの短編小説。19世紀末のマジシャンの映画といえば「プレステージ」があるが、あちらが次第に天才の狂気をあぶり出していくのに対して、こちらはロマンスに重点が置かれている。マジックを超えた幻想的な物語に思わせておいて、最後の最後で警部ウール(ポール・ジアマッティ)の推理によってすべてが一転するところが見どころ。でも、あれは真実なのかな。マジック好きのウールの想像にすぎないという解釈でなければ、納得いかない部分も若干。解釈はお好きなようにということでしょうか。

映画は普通に面白かったのだけど、なぜか眠くて仕方ない。一緒に見た友人も眠かったそう。前の席の人は気持ち良さそうに鼾をかいていた。梅雨時の低気圧のせいだろうか。「プレステージ」とどっちが好きかといったら、断然「プレステージ」だ。
ルーファス・シーウェルのルックスや雰囲気が、残虐な面を持つ高貴な役にぴったり。「ロック・ユー!」や「レジェンド・オブ・ゾロ」でもそうでしたね。最近は渋さが加わっていい感じ。対して公爵令嬢役のジェシカ・ビールがまったく貴族らしくない、むしろたくましい田舎娘といったルックスで、なぜキャスティングされたのか不思議です。
あのロケットペンダントは、田舎の物産館で土産物として売ってみたらどうか。1000円くらいで売ったら売れそう。


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映画の後で、ミュージカル「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」の打ち上げコンサートというものに誘われて行ってきた。映画でも主演していたジョン・キャメロン・ミッチェルがゲスト参加。7年ぶりにヘドウィグをステージ上で歌ったとのことだったが、もともと才能があるんですね。歌は良かったですよ。あと、山本耕史はギターがうまい。ヘドウィグばりのコスプレの人たちや、ジョン・キャメロン本人が登場するや感激のあまり号泣しだすファンもいて、圧倒されました。
さて、自分にとって今楽しみな来日ライブ公演といえば、アレなわけですが・・・はたしてとれるかなチケット。まったく予想がつかないのが怖いよおー。


2008/06/16のBlog
[ 00:39 ] [ 映画 ]

「JUNO/ジュノ」を観に行ったら、同じ映画館で、髪をオールバックに固め、くわえタバコ姿のヴィゴ・モーテンセンのポスター見て、ぐわぁああ面白そうだ!とそのまま続けて鑑賞。

「イースタン・プロミス」(2007年 英/カナダ/米)
★★★★

身体に虐待の痕のある14歳の妊婦が病院に担ぎ込まれ、出産直後に息を引き取る。助産婦のアンナは少女の持ち物にあったロシア語で書かれた日記から、少女の身元と赤ん坊の引き取り先を探し出そうとするが、とりあえず日記に挿んであったカードを頼りに訪ねた高級ロシア料理の店で、ロシアン・マフィアに目をつけられてしまう…。

ロンドンにロシア資本が流入するにつれ、裏社会のロシアン・マフィアたちも勢力を伸ばしているんだろうか…。デヴィッド・クローネンバーグ監督、ヴィゴ・モーテンセンとナオミ・ワッツ、ヴァンサン・カッセルら出演。いかにも男が憧れる渋い男を演じるモーテンセンもいいけど、父親の形見である古いソ連製のオートバイを乗り回すアンナ役のワッツも素敵。この2人の関係が、ちょっと古風な映画を見ているようでいいんです。あと、ロシア料理店オーナー役のアルミーン・ミュラー=シュタールが、無気味だったなあ。一見は好々爺なところが。この映画も、出演者が皆はまっているところが観ていて気持ちいい。
マフィアものであり、一つ一つの題材はそれほど新しいものではないけれど、そのパーツの組み合わせが巧くて、魅力的な映画になっている。余計なところのない佳品という印象でした。ロンドンのハマムで全裸のまま死闘を繰り広げる場面など、誇張がないゆえに一層生々しいバイオレンスシーンがあってR-18指定。

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少し前にレンタルで観た映画。「イースタン・プロミス」との共通点は、あのシーンしかない。こっちもある意味、恐ろしく息詰まる場面(笑)。比べるんだったら本来は「ヒストリー・オブ・バイオレンス」なんだけど、忘れていてまだ観ていない。

「ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習」(2006 米)
★★☆

カザフスタン国営テレビの看板レポーターである主人公ボラットが、取材先のアメリカで、大陸を横断しながら、はた迷惑な大騒動を巻き起こしていくという全米大ヒットのコメディ映画。
差別ネタで笑いを取り、国際問題にも発展したらしいですが、期待したほど面白い映画ではなかった。下ネタも人種差別ネタもストレートすぎて笑う気にならないし、カザフスタンをからかって何の意味があるのかとも思う。そのナンセンスさがいいんだろうか。テレビで見かけたパメラ・アンダーソンに恋をしてしまうという題材だけでも、もう少し掘り下げて、ホロリとさせてくれも良かったんではないか(笑)。でも、これ、素人らしき人がいっぱい出ていて、本気でボラットに騙されて呆れているようなんですよね。どこまでドキュメンタリーなんでしょう。

2008/06/15のBlog

映画館にて。アカデミー脚本賞受賞作。

「JUNO/ジュノ」(2007年 米)
★★★★

同級生と興味本位でした一度のセックスで思いがけず妊娠してしまった16歳の高校生ジュノ。彼女は中絶よりも養子縁組の道を選択し、親友の助けを借りて自ら雑誌で里親探しを始める…。

通常だったら深刻な題材として描かれる十代の妊娠と出産が、主人公ジュノの健気なキャラクターと、オフビート感に富んだ会話によって、力強いヒューマン・コメディに仕上がっていました!
ポリタンクに入ったジュースをがぶ飲みし、近所のドラッグストアに何度も通って妊娠検査薬を試してみるオープニングから、高校生ジュノは妊娠を周囲に隠すそぶりなどつゆとも見せず…。しかし、ジュノはまだ子供、やがて当人の予想を超える大波乱や葛藤が待っているに違いないと思いきや、妊娠を知らされた両親をはじめとする周りの人たちは実に物わかりがよい! だれも動揺や不安をあらわにして大騒ぎしないのは、やさしさや思いやり、互いの信頼感があるからこそ。そして、ジュノはジュノで、妊娠を自ら背負い込んだ試練として潔く向き合い、生まれてくる子供の幸せのためにベストを尽くそうとする。
アメリカの事情は知らないけど、日本ではかなり抵抗を持たれそうな内容をはらんでいる。しかし、後味が悪くないのは、軽妙な会話からうかがえるジュノやジュノの周辺の人々のやさしさや思いやり、信頼感。それが「世の中、こういう人たちばかりだったら、里子として育つ子供についても何も心配することはない」という不思議な説得力を生むからだ。


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少し前にレンタルで見た映画。「JUNO/ジュノ」と同じくジェイソン・ライトマン監督の前作。

「サンキュー・スモーキング」(2006年 米)
★★★★

全米のタバコ会社が出資するタバコ研究アカデミーのロビイストが、その巧みなディベート能力で禁煙ファシズムに対抗する…。

タバコを例に、害があると認められたものについては、人々に選択の自由を与えず全面排除しようとするファシズム的傾向を大いに皮肉った映画。辛辣でウイットに富んだ会話がてんこもりで、ところどころリプレイして見ちゃいました。
常に批判の矢面に立たされつつ、時には情報操作のための画策にも手を染める。一方で、離婚して別れて暮らす息子からは尊敬できる父親として資質を試されているという状況があり、やがて訪れる自身の大きな危機。これらを弁舌のみでどう収めていくかが見ものです。タバコ業界のPRマンなんて、もはやハンディだらけなので、相手の弱点をうまく利用するしかないのだが、そのことで社会の反感をいっそう煽ってしまってはロビイスト失格。禁煙ファシストを皮肉りながら、喫煙シーンが一度も登場しないのも、同様の気配りでしょうか。タバコについては吸う人にも吸わない人にも中立な立場で作られている映画になっていたと思う。
キャスティングが地味ながら皆よかった! “死の商人”団を自称とする飲み仲間たち=タバコ業界、アルコール業界、銃製造業界のPRマン3人の場面は特に可笑しかった。年間死者数を自慢しあってストレス発散って(笑)。最後にメンバーが増えているオチもヒット。あと、映画会社を訪れた主人公親子が、シャチがアザラシの子供を襲う有名なドキュメンタリー・フィルムの映像にぽかんと見入っている場面は、過激なイルカ・クジラ保護団体に対する皮肉だろうね、おそらく。