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2004/06/09のBlog
[ 17:49 ]
[ その他 ]
乗換駅で階段を
控えめに、あくまでも控えめに
降りて行くと、
めざす電車のドアは閉まり、
ため息をついて歩いていくと、急にその電車のドアがあき、
乗っている人の視線も感じるので、無視して
次の電車を待とうとすると、やけに開いている時間が長い・・・。
おもむろに、スマートに、あくまでもスマートに、
ドアに向かおうとすると、
3歩手前でドアが閉まってしまう。
駅の売店に行き、
ガムでも買おうと、手にとって、店のおばさんに渡そうとすると、
新聞を買ってる人に混ざって、
領収書をもらおうといしている人がいる。
財布から小銭をだして置いていこうと思ったら小銭がなくて、しかも1万円札しかない。
ああ、どうしようかと思ってると、次の電車がやってくる。
しかたなくガムを置いて、電車に乗り込む。
本を取り出して読もうと思ったら、となりの坊主の音洩れがすごくて、高音部だけがシャカシャカキンキン聞こえてくる。
やれやれと思ってつり革につかまると、前に座った高校生は化粧の真っ最中。手鏡にはラメのシールや、プーさんのシールを貼っている。
睫毛にべっとりマスカラつけて、唇はきらきら輝くピンク。
あいたスペースを見逃さないご婦人が、そのスペースの2倍分の体を押し込める。
すると電話の着信音。キーハンターの主題歌だ。「今、電車。大丈夫よ。ガハハ」。
何か右腕に冷たいものがと思ったら、汗っかきのおじ様の額から玉のような汗。それが流れてきたみたい・・・。
ああ、ビールの見たいなぁ、って思って、途中の駅で降りて、いつもの店に行くと臨時休業。
飲み仲間の女の子に電話して「どこかで飲まない?」と聞いてみたら、
どうやら今夜はデートらしい。
そしたら急に雨が降り出して、傘がないからびしょぬれ。あっという間のすごい雨で、急いで駅まで戻ったら電車は運休。
おいおいどうすりゃいいんだよ。
おこかの居酒屋で飲んでいこうかと、ふとポケットに手を突っ込んだら・・・。
財布を売店に忘れてた・・・。
控えめに、あくまでも控えめに
降りて行くと、
めざす電車のドアは閉まり、
ため息をついて歩いていくと、急にその電車のドアがあき、
乗っている人の視線も感じるので、無視して
次の電車を待とうとすると、やけに開いている時間が長い・・・。
おもむろに、スマートに、あくまでもスマートに、
ドアに向かおうとすると、
3歩手前でドアが閉まってしまう。
駅の売店に行き、
ガムでも買おうと、手にとって、店のおばさんに渡そうとすると、
新聞を買ってる人に混ざって、
領収書をもらおうといしている人がいる。
財布から小銭をだして置いていこうと思ったら小銭がなくて、しかも1万円札しかない。
ああ、どうしようかと思ってると、次の電車がやってくる。
しかたなくガムを置いて、電車に乗り込む。
本を取り出して読もうと思ったら、となりの坊主の音洩れがすごくて、高音部だけがシャカシャカキンキン聞こえてくる。
やれやれと思ってつり革につかまると、前に座った高校生は化粧の真っ最中。手鏡にはラメのシールや、プーさんのシールを貼っている。
睫毛にべっとりマスカラつけて、唇はきらきら輝くピンク。
あいたスペースを見逃さないご婦人が、そのスペースの2倍分の体を押し込める。
すると電話の着信音。キーハンターの主題歌だ。「今、電車。大丈夫よ。ガハハ」。
何か右腕に冷たいものがと思ったら、汗っかきのおじ様の額から玉のような汗。それが流れてきたみたい・・・。
ああ、ビールの見たいなぁ、って思って、途中の駅で降りて、いつもの店に行くと臨時休業。
飲み仲間の女の子に電話して「どこかで飲まない?」と聞いてみたら、
どうやら今夜はデートらしい。
そしたら急に雨が降り出して、傘がないからびしょぬれ。あっという間のすごい雨で、急いで駅まで戻ったら電車は運休。
おいおいどうすりゃいいんだよ。
おこかの居酒屋で飲んでいこうかと、ふとポケットに手を突っ込んだら・・・。
財布を売店に忘れてた・・・。
2004/03/31のBlog
[ 23:59 ]
[ 伝言版 ]
ぼちぼち更新していきます。
といいながらちっともできないんですが・・・。
何か
この物語への感想や、ご意見、
批判(あまり聞きたくないけど)、
あるいは私への連絡?などにお使いくださいませ。
といいながらちっともできないんですが・・・。
何か
この物語への感想や、ご意見、
批判(あまり聞きたくないけど)、
あるいは私への連絡?などにお使いくださいませ。
2004/03/15のBlog
[ 14:43 ]
[ 電車の中の魔女 ]
ノックをすると
「どうぞ」という、魔女の声。
ドアをあけると、リビングルームはちょっとした会議でも開けそうな大きな部屋だった。
右手にはバー、壁面には大型のテレビが埋め込んである。
そこにあるスピーカーから聞き覚えのない曲が流れている。
正面には広くて、足の短いテーブルがあり、
その回りを黒い、革張りのソファーがおいてあった。
白人の少年がぼくから見て左に、魔女は正面に座っていた。
正面にはガラス。相当高い建物なのだろう、
見えるのは空と、遠くにかすんで見える街と海。
招かれるまま、右手のソファに向かい、ぼくは腰掛けた。
「気を悪くしたでしょう」魔女がウインクをすると、ぼくの前にコーヒーが音もなく現れた。「弟のマイクよ」。
--弟?
マイクは白人だ。そして魔女は、どうみても東洋系だ。
そんなぼくの思いを遮るように、話し始めた。
「忘れちゃいけないわよ。私は魔女よ。
あなたたち人間とは、似たところもあるけど同じところばかりじゃないのよ。
マイクという名前もただの記号みたいなもの。マ
イクが身に付けているその体もね」。
ぼくは黙って彼女を見ていた。
「用事があったから、マイクを呼んだんだけど、
あなたが同じ部屋で、しかもベッドの上にいたのが許せなかったみたい。
マイクはね、わたしたちの兄弟の中では一番保守的なのよ」
魔女が笑うと、マイクは少し顔を赤くして魔女をにらみつけた。
「今、あなたがくる間に、あなたの夢を食べてることを、きちんと説明をしたら
やっとわかってくれたの。
でも夢を食べるのにベッドは必要ないはず、
というのが彼が今ひとつ納得できないことらしいけどね」。
魔女は微笑みながら言った。
「どうぞ」という、魔女の声。
ドアをあけると、リビングルームはちょっとした会議でも開けそうな大きな部屋だった。
右手にはバー、壁面には大型のテレビが埋め込んである。
そこにあるスピーカーから聞き覚えのない曲が流れている。
正面には広くて、足の短いテーブルがあり、
その回りを黒い、革張りのソファーがおいてあった。
白人の少年がぼくから見て左に、魔女は正面に座っていた。
正面にはガラス。相当高い建物なのだろう、
見えるのは空と、遠くにかすんで見える街と海。
招かれるまま、右手のソファに向かい、ぼくは腰掛けた。
「気を悪くしたでしょう」魔女がウインクをすると、ぼくの前にコーヒーが音もなく現れた。「弟のマイクよ」。
--弟?
マイクは白人だ。そして魔女は、どうみても東洋系だ。
そんなぼくの思いを遮るように、話し始めた。
「忘れちゃいけないわよ。私は魔女よ。
あなたたち人間とは、似たところもあるけど同じところばかりじゃないのよ。
マイクという名前もただの記号みたいなもの。マ
イクが身に付けているその体もね」。
ぼくは黙って彼女を見ていた。
「用事があったから、マイクを呼んだんだけど、
あなたが同じ部屋で、しかもベッドの上にいたのが許せなかったみたい。
マイクはね、わたしたちの兄弟の中では一番保守的なのよ」
魔女が笑うと、マイクは少し顔を赤くして魔女をにらみつけた。
「今、あなたがくる間に、あなたの夢を食べてることを、きちんと説明をしたら
やっとわかってくれたの。
でも夢を食べるのにベッドは必要ないはず、
というのが彼が今ひとつ納得できないことらしいけどね」。
魔女は微笑みながら言った。
2004/02/29のBlog
[ 15:15 ]
[ 伝言版 ]
ぼちぼち更新していきます。
何か
この物語への感想や、ご意見、
批判(あまり聞きたくないけど)、
あるいは私への連絡?などにお使いくださいませ。
何か
この物語への感想や、ご意見、
批判(あまり聞きたくないけど)、
あるいは私への連絡?などにお使いくださいませ。
2004/02/02のBlog
[ 15:46 ]
[ 電車の中の魔女 ]
誰かの話し声で目がさめた。
ぼくはベッドの中にいた。
ベッドの脇にはあの魔女が腰掛けている。
そして、彼女は聞きなれない言葉で、
見たことのない、白いTシャツを着た
白人の少年と話している。
「ああ、目がさめた?」
彼女はぼくの頭に手をやり、
少し汗ばんでいるぼくの髪を、
まるで恋人にするかのように撫でた。
聡明そうな白人の少年がぼくのほうに目を向ける。
茶色い髪の毛、形の良い鼻、薄い唇。
腕のあたりの黄金色の細い毛が、
窓からの光を受けて輝いていた。
そして、また、
不思議な言葉で彼女になにやら話し始めた。
彼は、彼女に抗議しているようにも見えた。
ぼくは、起き上がろうとしたが、
何も身につけていないことに気がついた。
部長と酒を飲んでいて、そこからの記憶がない。
ここがどこなのか、その手がかりもなかった。
「紹介するわ。それに何か着なきゃね」。
彼女はぼくに向かって、
白いセーターと
ペイズリー柄のトランクスを軽く投げた。
そして、「じゃあ、ちょっとはずすわね」
と言って、少年を促して部屋から出て行った。
「扉を開けて右側に
リビングルームがあるから。
そこで待ってるわ」。
ぼくはベッドを抜け出し、
トランクスをつけ、セーターを被った。
ベッドの下に見覚えのあるジーンズがあった。
いつもぼくが穿いているジーンズだ。
部屋にあった洗面所で顔を洗い、
ぼくはリビングルームに向かった。
廊下の壁には、腹黒いクマと少女、そしてペリカンが、
ぼくが読んでいる本の挿絵よろしく、
飾られていた。
ぼくはベッドの中にいた。
ベッドの脇にはあの魔女が腰掛けている。
そして、彼女は聞きなれない言葉で、
見たことのない、白いTシャツを着た
白人の少年と話している。
「ああ、目がさめた?」
彼女はぼくの頭に手をやり、
少し汗ばんでいるぼくの髪を、
まるで恋人にするかのように撫でた。
聡明そうな白人の少年がぼくのほうに目を向ける。
茶色い髪の毛、形の良い鼻、薄い唇。
腕のあたりの黄金色の細い毛が、
窓からの光を受けて輝いていた。
そして、また、
不思議な言葉で彼女になにやら話し始めた。
彼は、彼女に抗議しているようにも見えた。
ぼくは、起き上がろうとしたが、
何も身につけていないことに気がついた。
部長と酒を飲んでいて、そこからの記憶がない。
ここがどこなのか、その手がかりもなかった。
「紹介するわ。それに何か着なきゃね」。
彼女はぼくに向かって、
白いセーターと
ペイズリー柄のトランクスを軽く投げた。
そして、「じゃあ、ちょっとはずすわね」
と言って、少年を促して部屋から出て行った。
「扉を開けて右側に
リビングルームがあるから。
そこで待ってるわ」。
ぼくはベッドを抜け出し、
トランクスをつけ、セーターを被った。
ベッドの下に見覚えのあるジーンズがあった。
いつもぼくが穿いているジーンズだ。
部屋にあった洗面所で顔を洗い、
ぼくはリビングルームに向かった。
廊下の壁には、腹黒いクマと少女、そしてペリカンが、
ぼくが読んでいる本の挿絵よろしく、
飾られていた。
2004/01/31のBlog
[ 15:32 ]
[ 伝言版 ]
何か
この物語への感想や、ご意見、
批判(あまり聞きたくないけど)、
あるいは私への連絡?などにお使いくださいませ。
この物語への感想や、ご意見、
批判(あまり聞きたくないけど)、
あるいは私への連絡?などにお使いくださいませ。
2004/01/20のBlog
[ 18:22 ]
[ 電車の中の魔女 ]
営業部長は、グラスを重ねた後、
ビールを一気に飲み干し、「うまい」とつぶやいた。
ターミナル駅を東西に貫く、
大通りに沿ったビルにある居酒屋だ。
入り口に入ってすぐのカウンターと、
奥が座敷で4人がけのテーブルが3つ。
ぼくたちは、座敷の右隅に陣取った。
他に客はいない。
カウンターの中では、
50歳くらいの色白で小太りのママが料理を作っている。
「お待たせしました」とお通しを運んできたのは、
ママの娘だ。背が高く、やせている。
通った鼻筋が、辛うじて親子かなと思わせるくらいで、
似たところがあまりない。
今年、成人式だと、以前言っていた気がする。
部長と飲む時は必ずこの店だ。
お通し、刺身、煮物・・・。
この店でメニューを見て何かを頼んだことはない。
ころあいを見計らい、つまみが出てくる。
「しかし、求人もそうだけど、
J社もなんとかなりそうじゃないか」。
部長は、お通しのほうれん草のごま和えを
頬張りながら言った。
「えっ?」とぼくが思わず声を出すと、
「いや、途中で君の仕事に首を突っ込む
ということじゃないんだ」。
部長は大げさに手を自分の顔の前で左右に振った。
「たまたまJ社の常務に、
ゴルフのお誘いの電話をしたら、
宣伝部長が、君からのきょうの提案を
かなり前向きに提案を検討してる、というから、
適当に答えておいたけど。
あそこから、まとまった数字が取れれば、
すごく楽になるからね・・・」。
ぼくは、はあ、と答えるしかなかった。
J社はメガネ販売のチェーン店だ。
ぼくの担当している会社だが、
大手に押されて苦しい戦いを強いられている。
新聞やテレビといったマス媒体を使い
大量な宣伝をするという予算をもっていないし、
制作物を引き受けたとしても
利益の幅が薄いので、つい足が遠のく会社なのだ。
その会社が・・・。
もうぼくにはわかっていた。
あの魔女だ。。
いままで消えることのなかった、ぼくの夢が
はじめて消されてしまった。
その間に彼女は一体何をはじめたのだろうか。
「まあ、詳しい話は、
輪郭が見えてきたら教えてくれればいいよ」。
部長は上機嫌でママに熱燗を頼んだ。
ぼくはグラスのビールを飲み干した。
ビールを一気に飲み干し、「うまい」とつぶやいた。
ターミナル駅を東西に貫く、
大通りに沿ったビルにある居酒屋だ。
入り口に入ってすぐのカウンターと、
奥が座敷で4人がけのテーブルが3つ。
ぼくたちは、座敷の右隅に陣取った。
他に客はいない。
カウンターの中では、
50歳くらいの色白で小太りのママが料理を作っている。
「お待たせしました」とお通しを運んできたのは、
ママの娘だ。背が高く、やせている。
通った鼻筋が、辛うじて親子かなと思わせるくらいで、
似たところがあまりない。
今年、成人式だと、以前言っていた気がする。
部長と飲む時は必ずこの店だ。
お通し、刺身、煮物・・・。
この店でメニューを見て何かを頼んだことはない。
ころあいを見計らい、つまみが出てくる。
「しかし、求人もそうだけど、
J社もなんとかなりそうじゃないか」。
部長は、お通しのほうれん草のごま和えを
頬張りながら言った。
「えっ?」とぼくが思わず声を出すと、
「いや、途中で君の仕事に首を突っ込む
ということじゃないんだ」。
部長は大げさに手を自分の顔の前で左右に振った。
「たまたまJ社の常務に、
ゴルフのお誘いの電話をしたら、
宣伝部長が、君からのきょうの提案を
かなり前向きに提案を検討してる、というから、
適当に答えておいたけど。
あそこから、まとまった数字が取れれば、
すごく楽になるからね・・・」。
ぼくは、はあ、と答えるしかなかった。
J社はメガネ販売のチェーン店だ。
ぼくの担当している会社だが、
大手に押されて苦しい戦いを強いられている。
新聞やテレビといったマス媒体を使い
大量な宣伝をするという予算をもっていないし、
制作物を引き受けたとしても
利益の幅が薄いので、つい足が遠のく会社なのだ。
その会社が・・・。
もうぼくにはわかっていた。
あの魔女だ。。
いままで消えることのなかった、ぼくの夢が
はじめて消されてしまった。
その間に彼女は一体何をはじめたのだろうか。
「まあ、詳しい話は、
輪郭が見えてきたら教えてくれればいいよ」。
部長は上機嫌でママに熱燗を頼んだ。
ぼくはグラスのビールを飲み干した。
2004/01/13のBlog
[ 16:54 ]
[ 電車の中の魔女 ]
カフェを出て、営業部長宛てに電話をし、
連絡が遅れたことを詫び、
そして求人広告が決定したことを伝えた。
今月の売上になると言うと、
「おい、祝杯でもあげるか」と電話の向こうで陽気な声がした。
何をしてたんだ、と叱責されたらどうしようか、
とも考えていたのだが、
どうやらきょうは機嫌がいいみたいだ。
原稿の整理も必要なので、
どのみち、いったん会社には戻らなければならない。
ぼくはあいまいに返事をして、駅に向かった。
ぼくの働く広告会社の営業数字はひどくいびつだ。
売上の7割は、食品メーカーA社が
新聞一紙と雑誌一誌に出稿する際の
取り扱い手数料だ。
これは先代のウチの社長と、
A社の先代の社長との付き合いから発生している扱いで、
A社の社長が権力の座を降りると
取引を打ち切られる可能性が高い。
残り3割もほとんどが、
戦後の混乱期に、
先代の社長が知り合った方との関係が生きていて、
ぼくが入社するきっかけとなったおじは
そんなクライアントの一社の役員をやっているのだ。
いわゆる世間がイメージする広告マンとは、
まったく違う業界で仕事をしているような気がする。
例えばウチの社の売上の7割を占めるA社の広告の制作は、
D社やH社という、世間にもよく知られる大手の広告会社がコンペをして、
勝ったり負けたりしているわけだが、
ウチはその制作コンペに出席を求められることはまずない。
だからぼくたちは、
A社のCMに出るタレントを見るのは、
新商品の記者発表時に、
扱いのある新聞社と雑誌社をアテンドする際に、
ただ「ああ、あれが」と見るだけ。
CMの撮影や編集に立ち会うこともないし、
新聞や雑誌に掲載する、
いわゆるスティールの撮影に立ち会うこともない。
ただ決定した広告のスペース取りをし、
請求書を発行するだけ。
もちろん、A社と、媒体社の冠婚葬祭や人事、
そして情報交換と称する飲み会も、
生き残りのためのたいせつな仕事だ。
クライアントのお尻をふいてるだけで役に立たない、
という扱いのある媒体社からの陰口も聞こえてくるが、反論のしようもない。
雑誌のタイアップにいたっては、
われわれの頭越しがほとんどだ。
そうした、少し悲しい現場を取りしきっているのが
営業部長だった。
連絡が遅れたことを詫び、
そして求人広告が決定したことを伝えた。
今月の売上になると言うと、
「おい、祝杯でもあげるか」と電話の向こうで陽気な声がした。
何をしてたんだ、と叱責されたらどうしようか、
とも考えていたのだが、
どうやらきょうは機嫌がいいみたいだ。
原稿の整理も必要なので、
どのみち、いったん会社には戻らなければならない。
ぼくはあいまいに返事をして、駅に向かった。
ぼくの働く広告会社の営業数字はひどくいびつだ。
売上の7割は、食品メーカーA社が
新聞一紙と雑誌一誌に出稿する際の
取り扱い手数料だ。
これは先代のウチの社長と、
A社の先代の社長との付き合いから発生している扱いで、
A社の社長が権力の座を降りると
取引を打ち切られる可能性が高い。
残り3割もほとんどが、
戦後の混乱期に、
先代の社長が知り合った方との関係が生きていて、
ぼくが入社するきっかけとなったおじは
そんなクライアントの一社の役員をやっているのだ。
いわゆる世間がイメージする広告マンとは、
まったく違う業界で仕事をしているような気がする。
例えばウチの社の売上の7割を占めるA社の広告の制作は、
D社やH社という、世間にもよく知られる大手の広告会社がコンペをして、
勝ったり負けたりしているわけだが、
ウチはその制作コンペに出席を求められることはまずない。
だからぼくたちは、
A社のCMに出るタレントを見るのは、
新商品の記者発表時に、
扱いのある新聞社と雑誌社をアテンドする際に、
ただ「ああ、あれが」と見るだけ。
CMの撮影や編集に立ち会うこともないし、
新聞や雑誌に掲載する、
いわゆるスティールの撮影に立ち会うこともない。
ただ決定した広告のスペース取りをし、
請求書を発行するだけ。
もちろん、A社と、媒体社の冠婚葬祭や人事、
そして情報交換と称する飲み会も、
生き残りのためのたいせつな仕事だ。
クライアントのお尻をふいてるだけで役に立たない、
という扱いのある媒体社からの陰口も聞こえてくるが、反論のしようもない。
雑誌のタイアップにいたっては、
われわれの頭越しがほとんどだ。
そうした、少し悲しい現場を取りしきっているのが
営業部長だった。
2004/01/09のBlog
[ 17:30 ]
[ 電車の中の魔女 ]
気がつくと、ぼくはコーヒーを前にして、
行き交う車や人を眺めていた。
店の中を見回してみたが
彼女は姿を消したようだった。
喉が渇いていたのでコーヒーを飲もうしとたが、
カップはまだやけどしそうなくらい熱い。
まったく時間がたっていないかのようだ。
体の中には、
確かに彼女を抱いたという感覚が残っている。
でも、目に見える証拠は何もなかった。
読みかけの本を読もうとしたが、
まったく頭に入らない。
廃墟の町に入り込んだ少女は、
明かりが灯った家をノックして、
開いたドアに引きずり込まれた。
腹黒いクマが、さも親切そうに少女に話しかける。
警戒している少女にいらつくクマをなだめるペリカン。
そこで止まっまま、コトバが頭の中に入ってこないのだ。
--ぼくを借りる
と彼女は言った。
--ぼくの中に入るだけだ
と彼女は言った。
今、彼女はどこにいるんだろう。
ここにいるぼくはぼくなんだろうか。
ぼくはひょっとして、
ここではないどこかにいるのだろうか。
女の人を抱いた後のいつもの虚脱感に、
どこかやりきれないような感じが混ざり合い、
ぼくは両肘をテーブルにつきこめかみを軽く触った。
携帯が鳴った。メールだ。会社からだった。
--きょうはノーリターンですか?会社にご連絡を。
時計を見た。17時。なんてことだ。
いつのまにか窓の外は暗くなり始めていた。
行き交う車や人を眺めていた。
店の中を見回してみたが
彼女は姿を消したようだった。
喉が渇いていたのでコーヒーを飲もうしとたが、
カップはまだやけどしそうなくらい熱い。
まったく時間がたっていないかのようだ。
体の中には、
確かに彼女を抱いたという感覚が残っている。
でも、目に見える証拠は何もなかった。
読みかけの本を読もうとしたが、
まったく頭に入らない。
廃墟の町に入り込んだ少女は、
明かりが灯った家をノックして、
開いたドアに引きずり込まれた。
腹黒いクマが、さも親切そうに少女に話しかける。
警戒している少女にいらつくクマをなだめるペリカン。
そこで止まっまま、コトバが頭の中に入ってこないのだ。
--ぼくを借りる
と彼女は言った。
--ぼくの中に入るだけだ
と彼女は言った。
今、彼女はどこにいるんだろう。
ここにいるぼくはぼくなんだろうか。
ぼくはひょっとして、
ここではないどこかにいるのだろうか。
女の人を抱いた後のいつもの虚脱感に、
どこかやりきれないような感じが混ざり合い、
ぼくは両肘をテーブルにつきこめかみを軽く触った。
携帯が鳴った。メールだ。会社からだった。
--きょうはノーリターンですか?会社にご連絡を。
時計を見た。17時。なんてことだ。
いつのまにか窓の外は暗くなり始めていた。
2004/01/04のBlog
[ 18:36 ]
[ 電車の中の魔女 ]
とても奇妙な体験だった。
ぼくは、仕事の得意先がある、駅近くのカフェで、
お茶を飲んでいる。
お茶を飲んでいる自分がいることを意識しているのに、
ぼくは、誰のかはわからない部屋のベッドで、
魔女と2人、羽毛のやわらかい上掛けの下で愛しあっているのだ。
彼女はぼくの上にいてぼくの首に左手を回していた。
何度か、
--心配しないで
と囁いていたが、その囁きに時折、
うめき声が混じるようになってきた。
形の良い、柔らかで、たわわな白い乳房がぼくの前に現れ、
ぼくはその乳房の先の果実に唇を押し当て、
そして軽く咥えた。
そこから先は、
上になり、下になりながら、
ただただ一直線に、光の見える彼方に向かって、
互いに一直線に駆け抜けるだけだった。
ぼくは彼女の胸に、頭を置こうとした。
柔らかな乳房を、頬に感じたかったのだ。
ところが、突然の睡魔がぼくを襲った。
裸のままのぼくは、
独りぼっちになり、
そこにはもうベッドもなにもなく、
電車の中で、時折、彼女と過ごしたことのある
白っぽい壁の、天井の高い部屋で、
パイプの椅子に座っている。
竜巻のようなものが足元からぼくを包み、
持ち上げられたかと思うと、
今度は下に向かって引き摺り下ろそうとした。
白っぽい壁では、強い光が明滅をはじめ、
ぼくはどこかへ放り出された。
ただ、どこにも降り立てないのだ。
かといって漂っているわけでもない。
速さを感じているわけでもない。
ただただ放り出されているという感じ。
どこまでも続く光の明滅。
「助けてくれ」と叫ぼうとしたが、声にならない。
--心配しないで
という声は、どこからも聞こえてこなかった。
ぼくは、仕事の得意先がある、駅近くのカフェで、
お茶を飲んでいる。
お茶を飲んでいる自分がいることを意識しているのに、
ぼくは、誰のかはわからない部屋のベッドで、
魔女と2人、羽毛のやわらかい上掛けの下で愛しあっているのだ。
彼女はぼくの上にいてぼくの首に左手を回していた。
何度か、
--心配しないで
と囁いていたが、その囁きに時折、
うめき声が混じるようになってきた。
形の良い、柔らかで、たわわな白い乳房がぼくの前に現れ、
ぼくはその乳房の先の果実に唇を押し当て、
そして軽く咥えた。
そこから先は、
上になり、下になりながら、
ただただ一直線に、光の見える彼方に向かって、
互いに一直線に駆け抜けるだけだった。
ぼくは彼女の胸に、頭を置こうとした。
柔らかな乳房を、頬に感じたかったのだ。
ところが、突然の睡魔がぼくを襲った。
裸のままのぼくは、
独りぼっちになり、
そこにはもうベッドもなにもなく、
電車の中で、時折、彼女と過ごしたことのある
白っぽい壁の、天井の高い部屋で、
パイプの椅子に座っている。
竜巻のようなものが足元からぼくを包み、
持ち上げられたかと思うと、
今度は下に向かって引き摺り下ろそうとした。
白っぽい壁では、強い光が明滅をはじめ、
ぼくはどこかへ放り出された。
ただ、どこにも降り立てないのだ。
かといって漂っているわけでもない。
速さを感じているわけでもない。
ただただ放り出されているという感じ。
どこまでも続く光の明滅。
「助けてくれ」と叫ぼうとしたが、声にならない。
--心配しないで
という声は、どこからも聞こえてこなかった。
2003/12/29のBlog
[ 12:36 ]
[ その他 ]
流行にのった・・・。
そうです。
すみません。
そうです。
すみません。
2003/12/26のBlog
[ 18:30 ]
[ 電車の中の魔女 ]
--ルール違反だとでも思っているの?
彼女はぼくの心を見透かしているように言った。
そうなんだ。ルール違反だよ。でも、
--そうね、だれもルールなんて決めてないでしょ?
だけど、それは・・・
--困るって言いたいのね。その気持ちはとてもよくわかるわ。
でも、あなたって決めたんだから、あきらめてもらわなくちゃ。
突然、彼女はぼくの前にきて、ぼくのまぶたをそっと下ろす。
ぼくの首の周りに手を回し、ぼくを彼女の胸のほうに抱き寄せる。
カップに入ったコーヒーが揺れているように見えたけれど、
ここはもうカフェではなく、天井が低い、誰かの部屋。
ベッドがあって、ソファがあって、
壁にはテレビがかかっている。
音楽が聞こえる。
口当たりがよく、せつなく、それでいて出口がない、
繰り返し、繰り返し流れるスローバラード。
時間の感覚がずれていくのを感じながら、
ぼくは彼女の胸に頬をつけ、甘い香水の匂いをかぐ。
彼女の願いは何だろうか?
魔女は何を願うのだろうか?
--素敵な箒がほしいとか、
ブランドものの魔法の杖だとか?
残念ながらそうじゃないわ。
では何を?
--ちょっとしばらくあなたを借りたいのよ。
ぼくを借りるって?
--あなたの中に入るだけよ。
あなたのことはもうあなた以上に知ってる。
だっていっぱい、食べつくしたから。
「待って」とぼくが叫ぼうとすると、
彼女はぼくをきつく抱きしめた。
--心配しないで。私は魔女よ。
彼女は囁いた。いつもの声で。
そしてぼくたちははじめてベッドの中で愛しあったのだ。
彼女はぼくの心を見透かしているように言った。
そうなんだ。ルール違反だよ。でも、
--そうね、だれもルールなんて決めてないでしょ?
だけど、それは・・・
--困るって言いたいのね。その気持ちはとてもよくわかるわ。
でも、あなたって決めたんだから、あきらめてもらわなくちゃ。
突然、彼女はぼくの前にきて、ぼくのまぶたをそっと下ろす。
ぼくの首の周りに手を回し、ぼくを彼女の胸のほうに抱き寄せる。
カップに入ったコーヒーが揺れているように見えたけれど、
ここはもうカフェではなく、天井が低い、誰かの部屋。
ベッドがあって、ソファがあって、
壁にはテレビがかかっている。
音楽が聞こえる。
口当たりがよく、せつなく、それでいて出口がない、
繰り返し、繰り返し流れるスローバラード。
時間の感覚がずれていくのを感じながら、
ぼくは彼女の胸に頬をつけ、甘い香水の匂いをかぐ。
彼女の願いは何だろうか?
魔女は何を願うのだろうか?
--素敵な箒がほしいとか、
ブランドものの魔法の杖だとか?
残念ながらそうじゃないわ。
では何を?
--ちょっとしばらくあなたを借りたいのよ。
ぼくを借りるって?
--あなたの中に入るだけよ。
あなたのことはもうあなた以上に知ってる。
だっていっぱい、食べつくしたから。
「待って」とぼくが叫ぼうとすると、
彼女はぼくをきつく抱きしめた。
--心配しないで。私は魔女よ。
彼女は囁いた。いつもの声で。
そしてぼくたちははじめてベッドの中で愛しあったのだ。
2003/12/23のBlog
[ 21:19 ]
[ リレー小説 「蛍の川」 ]
[前回の続き]
夏休みが始まった。
何を心待ちにしていたのだろう。
一人で遊ぶ無限の時間? それとも・・・。
小人さん座りをして“ささやき川”に笹舟を流したり、
名前を付けた石と戯れたり。
でもそれはあまり特別ではないな、
なんだ、夏休みってこんなものだっけと、
少し拍子抜けした気持ちで河原にたたずんでいると、
急に大きな声がした。
「おれ、ここにいるの嫌なんだ」
ちいは最初、“ささやき川”がしゃべったのかなと思った。
でも、せせらぎの音とは違って、その声は、どこか具体的だった。
ちいが少し前かがみになって声の主を探すと、
おまんじゅう石が、手をふったように思えた。
--まさか、石はしゃべらないわね。
ちいがつぶやくと、おまんじゅう石はごろんと、川の中を転がった。
「えっ?あなたなの?」
信じられない思いでちいは川の中をのぞいた。
「おいらのほかに誰かいるかい?」
おまんじゅう石は不満そうに言った。
確かに話してる。
「ごめんなさい」。ちいはそう言って、
おまんじゅう石に手を差し伸べようとした。
「気安くさわるんじゃぁないよ」
今度は少し怒ってる。「いつもあんたたちはそうなんだ」
「あんたたち?」ちいの言葉は無視された。
「俺がどこにいたか知ってるか?
一本杉山のずっとずっと遠くの山で、
俺はある木の精を守ってたんだ」
おまんじゅう石はもう一度ごろんと、
川の中を転がった。
「そうしたらな、登山客が急に俺を拾い上げて、
俺は突然暗闇の中だ。
リュックの中に入れられて、手も足も出ない。
どんなに怒鳴っても、俺の声を聞こうとしない。
早く帰らないとたいへんだ。
木の精は、俺なしで
こんなに長い間過ごしたことはないんだよ」。
「わかったわ」。
ちいは、おまんじゅう石に負けないように大きな声を出してみた。
なんだか言われっぱなしって嫌だったから。
「まかせてよ。私が木の精のところに連れっていってあげるわ」。
--
次は
瀬王七星さんにおねがいします。
夏休みが始まった。
何を心待ちにしていたのだろう。
一人で遊ぶ無限の時間? それとも・・・。
小人さん座りをして“ささやき川”に笹舟を流したり、
名前を付けた石と戯れたり。
でもそれはあまり特別ではないな、
なんだ、夏休みってこんなものだっけと、
少し拍子抜けした気持ちで河原にたたずんでいると、
急に大きな声がした。
「おれ、ここにいるの嫌なんだ」
ちいは最初、“ささやき川”がしゃべったのかなと思った。
でも、せせらぎの音とは違って、その声は、どこか具体的だった。
ちいが少し前かがみになって声の主を探すと、
おまんじゅう石が、手をふったように思えた。
--まさか、石はしゃべらないわね。
ちいがつぶやくと、おまんじゅう石はごろんと、川の中を転がった。
「えっ?あなたなの?」
信じられない思いでちいは川の中をのぞいた。
「おいらのほかに誰かいるかい?」
おまんじゅう石は不満そうに言った。
確かに話してる。
「ごめんなさい」。ちいはそう言って、
おまんじゅう石に手を差し伸べようとした。
「気安くさわるんじゃぁないよ」
今度は少し怒ってる。「いつもあんたたちはそうなんだ」
「あんたたち?」ちいの言葉は無視された。
「俺がどこにいたか知ってるか?
一本杉山のずっとずっと遠くの山で、
俺はある木の精を守ってたんだ」
おまんじゅう石はもう一度ごろんと、
川の中を転がった。
「そうしたらな、登山客が急に俺を拾い上げて、
俺は突然暗闇の中だ。
リュックの中に入れられて、手も足も出ない。
どんなに怒鳴っても、俺の声を聞こうとしない。
早く帰らないとたいへんだ。
木の精は、俺なしで
こんなに長い間過ごしたことはないんだよ」。
「わかったわ」。
ちいは、おまんじゅう石に負けないように大きな声を出してみた。
なんだか言われっぱなしって嫌だったから。
「まかせてよ。私が木の精のところに連れっていってあげるわ」。
--
次は
瀬王七星さんにおねがいします。
2003/12/19のBlog
[ 17:15 ]
[ 電車の中の魔女 ]
目を閉じていない時に、
そして、電車の中以外で、
彼女がぼくの意識に入り込んできたのは初めてだった。
この一ヶ月。最初は悲鳴をあげたくせに、
ぼくは彼女が夢を見に来ることが楽しみになっていた。
彼女の吐息がかかる。
彼女が膝に乗り、ぼくの首に手を回す。
おでこにキスをすることもある。
そんなことに夢中になる。
彼女はぼくの夢を食べていく。
意識していたこと、思い出そうとしていたこと、
こうなればいいなと思ったこと、
そうしたものをバリバリと音がしそうな勢いで、
でも口をあけたりするのではなく、
ともかく食べていくのだ。
ところがぼくの夢がなくなるわけではない。
ぼくの記憶がなくなるわけでも、
意識していたことを忘れていくわけでもない。
だから彼女は囁きつづける。
--心配しないで。私は魔女よ。
暗い井戸の底で、何かが蠢いているような声で。
とても気持ちが良くなる。
飲み過ぎて、睡眠不足の時、
なぜかとてつもなく具体的な肉体を貪りたくなるような、
そんな感覚がぼくを襲い、
ぼくが手を伸ばそうとする時に、
決まって電車はターミナル駅にすべりこむのだ。
それなのに、改札口をでたとたん、
彼女の事を思い出すこともなかったのに、
彼女は同じ店にいる。
ぼくがいることを知らないわけはないのに、
彼女はぼくのほうを見ようともしない。
しばらくして、
--お願いがあるのよ。
彼女の声がした。
そして、電車の中以外で、
彼女がぼくの意識に入り込んできたのは初めてだった。
この一ヶ月。最初は悲鳴をあげたくせに、
ぼくは彼女が夢を見に来ることが楽しみになっていた。
彼女の吐息がかかる。
彼女が膝に乗り、ぼくの首に手を回す。
おでこにキスをすることもある。
そんなことに夢中になる。
彼女はぼくの夢を食べていく。
意識していたこと、思い出そうとしていたこと、
こうなればいいなと思ったこと、
そうしたものをバリバリと音がしそうな勢いで、
でも口をあけたりするのではなく、
ともかく食べていくのだ。
ところがぼくの夢がなくなるわけではない。
ぼくの記憶がなくなるわけでも、
意識していたことを忘れていくわけでもない。
だから彼女は囁きつづける。
--心配しないで。私は魔女よ。
暗い井戸の底で、何かが蠢いているような声で。
とても気持ちが良くなる。
飲み過ぎて、睡眠不足の時、
なぜかとてつもなく具体的な肉体を貪りたくなるような、
そんな感覚がぼくを襲い、
ぼくが手を伸ばそうとする時に、
決まって電車はターミナル駅にすべりこむのだ。
それなのに、改札口をでたとたん、
彼女の事を思い出すこともなかったのに、
彼女は同じ店にいる。
ぼくがいることを知らないわけはないのに、
彼女はぼくのほうを見ようともしない。
しばらくして、
--お願いがあるのよ。
彼女の声がした。
2003/12/12のBlog
[ 16:26 ]
[ 電車の中の魔女 ]
打ち合わせは地下鉄にのって2駅、
歩く時間をいれても15分ほどで着く、システム会社。
今までも何度か、ウチの会社を使ってくれている。
社長はいわゆる広告好きだ。時々、オーナー企業の社長にそういう人がいる。
この社長は、システム関連の会社なのに、インターネットの求人広告を使わない。
「カギはブランディングだもんね」と、50歳くらいの少し小太りの社長が切り出した。
「ネットは、他の会社の人の話題にならないけどさ、
新聞に広告出すと、時々、調子いいんだねぇ」なんて取引先なんかに言われてさ。
そういうのもたいせつだと思うんだ」。
適当に相槌をうちながら、広告のプランや料金を説明する。
ウチは求人専門の会社ではないので、
そうした会社が安く媒体から仕入れる、
求人広告の枠物と言われる特集を持っていない。
ただ、この社長はそれも承知の上だ。
「特集の中だと目立たなくなるからね」。
ひとまず、経済紙一紙と、全国紙一紙に求人広告を掲載することになり、
原稿の打ち合わせも終わり、意外と早くその会社を出ることができた。
決して大きな金額ではないけれど、
ともあれ仕事が決まったので、
会社に帰る前に駅近くのカフェでお茶を飲んでいくことにした。
コーヒーを持ちテーブルにすわり、
バッグの中から読みかけの本を取り出す。
2ページほど進んだところで、
携帯電話が鳴ったような気がして、ポケットを確かめた。
すると、待ち受け画面に、彼女がいたような気がしたが、
すぐにいつもの画面に変った。
えっと思うまもなく、
--よかったわね。仕事も決まって。
ぼくの頭の中で彼女がささやく。ぼくは本を閉じあたりを見回した。
彼女は道路際のぼくと、まったく反対側の店の奥に座っていた。
ただ、彼女はぼくのほうを見てはいなかった。
歩く時間をいれても15分ほどで着く、システム会社。
今までも何度か、ウチの会社を使ってくれている。
社長はいわゆる広告好きだ。時々、オーナー企業の社長にそういう人がいる。
この社長は、システム関連の会社なのに、インターネットの求人広告を使わない。
「カギはブランディングだもんね」と、50歳くらいの少し小太りの社長が切り出した。
「ネットは、他の会社の人の話題にならないけどさ、
新聞に広告出すと、時々、調子いいんだねぇ」なんて取引先なんかに言われてさ。
そういうのもたいせつだと思うんだ」。
適当に相槌をうちながら、広告のプランや料金を説明する。
ウチは求人専門の会社ではないので、
そうした会社が安く媒体から仕入れる、
求人広告の枠物と言われる特集を持っていない。
ただ、この社長はそれも承知の上だ。
「特集の中だと目立たなくなるからね」。
ひとまず、経済紙一紙と、全国紙一紙に求人広告を掲載することになり、
原稿の打ち合わせも終わり、意外と早くその会社を出ることができた。
決して大きな金額ではないけれど、
ともあれ仕事が決まったので、
会社に帰る前に駅近くのカフェでお茶を飲んでいくことにした。
コーヒーを持ちテーブルにすわり、
バッグの中から読みかけの本を取り出す。
2ページほど進んだところで、
携帯電話が鳴ったような気がして、ポケットを確かめた。
すると、待ち受け画面に、彼女がいたような気がしたが、
すぐにいつもの画面に変った。
えっと思うまもなく、
--よかったわね。仕事も決まって。
ぼくの頭の中で彼女がささやく。ぼくは本を閉じあたりを見回した。
彼女は道路際のぼくと、まったく反対側の店の奥に座っていた。
ただ、彼女はぼくのほうを見てはいなかった。
2003/12/09のBlog
[ 16:25 ]
[ 電車の中の魔女 ]
私は、平凡な会社員だ。
終点のターミナル駅で降りて、5分ほど歩いたところにある
ビルの中の一角に私の勤める会社がある。
平凡な私立大学を5年前に出て、親戚のおじさんのコネでこの会社に入った。
会社は小さな広告会社。社長と専務、取締役営業部長、
5人の営業、媒体担当兼送稿係が2人。経理と社内周りを取り仕切る女性が一人。
一応、制作が2人。1人は契約というかアルバイトで、
ふだんは会社にいないが、何かあると呼び出される。
ぼくは営業の5人のうちの一人だ。
広告会社といえば、何となく華やかなイメージがあるが、
ウチにはそんな空気はまったくない。
朝、メールの処理。といっても、仕事のメールが極端に多いわけではない。
そのあと、新聞をパラパラめくって広告をチェック。
きょうは掲載のある新聞はなし、同じく雑誌の発売もない。
小さな会社から求人広告の問い合わせが来ていて、電話をかけ、
その打ち合わせで出かけることにする。
不思議なことに、1ヶ月前に会って以来、魔女のことは、
ターミナル駅の改札口を抜ける時にはすっかり忘れている。
思い出すのは、翌朝、T駅の改札を通ってからだ。
ところが、この日は違っていたのだ。
終点のターミナル駅で降りて、5分ほど歩いたところにある
ビルの中の一角に私の勤める会社がある。
平凡な私立大学を5年前に出て、親戚のおじさんのコネでこの会社に入った。
会社は小さな広告会社。社長と専務、取締役営業部長、
5人の営業、媒体担当兼送稿係が2人。経理と社内周りを取り仕切る女性が一人。
一応、制作が2人。1人は契約というかアルバイトで、
ふだんは会社にいないが、何かあると呼び出される。
ぼくは営業の5人のうちの一人だ。
広告会社といえば、何となく華やかなイメージがあるが、
ウチにはそんな空気はまったくない。
朝、メールの処理。といっても、仕事のメールが極端に多いわけではない。
そのあと、新聞をパラパラめくって広告をチェック。
きょうは掲載のある新聞はなし、同じく雑誌の発売もない。
小さな会社から求人広告の問い合わせが来ていて、電話をかけ、
その打ち合わせで出かけることにする。
不思議なことに、1ヶ月前に会って以来、魔女のことは、
ターミナル駅の改札口を抜ける時にはすっかり忘れている。
思い出すのは、翌朝、T駅の改札を通ってからだ。
ところが、この日は違っていたのだ。
2003/12/08のBlog
[ 14:10 ]
[ 電車の中の魔女 ]
最初に彼女が夢を食らいに来たのは1ヶ月ほど前だった。
その時は前日、遅くまで酒を飲んだ。
その朝は、このところ日課になった英語の勉強だ。
単語とフレーズのディクテーション。英語が聴こえるとパソコンの前で、タイプを叩く。
そのため起きるのは毎朝6時。さすがにその日は眠かった。
電車に乗って、英語の小説を広げたとたん、睡魔が襲い、ぼくは目を閉じた。
電車が走り出す頃には、現実と夢の境がなくなるような、
通勤電車の特有の、あの快感がぼくを包み始めたとき・・・
電車が急停車した・・・。いや、現実には電車が急停車したように思えた。
ぼくは彼女に激しく揺り動かされていたのだ。
彼女に見覚えはあった。
でも細部までは覚えていなかった。
彼女のたるんだ頬の肉、両端が巻き上がった唇が、ぼくに近づいてきた。
何だかとても高そうな香水の香り。
そして彼女はぼくの正面に顔を寄せて
--もう眠っているの? もう寝てしまった?
とぼくの肩を揺らしながら、静かな声で聞くのだ。
何か、夢でも見ているのかと思い、目を開こうとするのだが、
彼女の顔は見えているのだが、目は開かない。
開かない目で見ているのは電車の中の情景ではなく、
白っぽい壁の、天井の高い部屋で、ぼくは一人パイプの椅子に座っている。
--心配しないで。私は魔女よ。
と彼女は言った。そしてぼくのおでこに唇を当てた。
--心配しないで・・・
その声が消え入りそうになった時、
電車はもうすぐ終着駅にすべりこむところだった。ぼくは悲鳴をあげそうになった。
正面に座った彼女が、唇の端をゆがめて、にこっとたしかに笑ったからだ。
夢を食べられることに気がついた朝だった。
その時は前日、遅くまで酒を飲んだ。
その朝は、このところ日課になった英語の勉強だ。
単語とフレーズのディクテーション。英語が聴こえるとパソコンの前で、タイプを叩く。
そのため起きるのは毎朝6時。さすがにその日は眠かった。
電車に乗って、英語の小説を広げたとたん、睡魔が襲い、ぼくは目を閉じた。
電車が走り出す頃には、現実と夢の境がなくなるような、
通勤電車の特有の、あの快感がぼくを包み始めたとき・・・
電車が急停車した・・・。いや、現実には電車が急停車したように思えた。
ぼくは彼女に激しく揺り動かされていたのだ。
彼女に見覚えはあった。
でも細部までは覚えていなかった。
彼女のたるんだ頬の肉、両端が巻き上がった唇が、ぼくに近づいてきた。
何だかとても高そうな香水の香り。
そして彼女はぼくの正面に顔を寄せて
--もう眠っているの? もう寝てしまった?
とぼくの肩を揺らしながら、静かな声で聞くのだ。
何か、夢でも見ているのかと思い、目を開こうとするのだが、
彼女の顔は見えているのだが、目は開かない。
開かない目で見ているのは電車の中の情景ではなく、
白っぽい壁の、天井の高い部屋で、ぼくは一人パイプの椅子に座っている。
--心配しないで。私は魔女よ。
と彼女は言った。そしてぼくのおでこに唇を当てた。
--心配しないで・・・
その声が消え入りそうになった時、
電車はもうすぐ終着駅にすべりこむところだった。ぼくは悲鳴をあげそうになった。
正面に座った彼女が、唇の端をゆがめて、にこっとたしかに笑ったからだ。
夢を食べられることに気がついた朝だった。
2003/12/06のBlog
[ 11:05 ]
[ 電車の中の魔女 ]
そっと正面を見ると、彼女はぼくをじっと見ていた。
あわてて英語の小説に戻る。主人公の女の子が廃墟の町に入り込んでしまう。
そして・・・。見慣れない単語にぶつかる。
別にその言葉がわからなくても、全体の意味がとれない、ということでもなさそうだが、
ほんとにそうだろうか。
denizen・・・。朝の電車でなければ、
魔女の視線を感じてなければ、
迷わず進むところだが、気なってしょうがない。
隣に座った女性は、もう微かな寝息を立て始めた。
あきらめて目を閉じることにする。
ただ、ほんとうはあきらめて、ではなくて、
魔女がぼくの夢を食らおうとすることを期待しているのだ。
目を閉じるとあっという間に彼女はぼくの意識の中に入ってきた。
---寝てはだめよ。
彼女はぼくにささやく。きょうはぼくのひざに乗ったりはしないみたいだ。
そして姿は見えない。ぼくの斜め後ろに立っている気配がする。
暗い井戸の底で、何かが蠢いているような声。
--その隣の女はあんたの夢を食べてしまうわ。
嘘だ。夢を食べるのはあんたじゃないか、
と言いたいのだが、言葉にはならない。
--寝なければいいの。目を閉じているだけなら問題はないわ。
彼女の吐息がぼくの首筋を撫でる。
あわてて英語の小説に戻る。主人公の女の子が廃墟の町に入り込んでしまう。
そして・・・。見慣れない単語にぶつかる。
別にその言葉がわからなくても、全体の意味がとれない、ということでもなさそうだが、
ほんとにそうだろうか。
denizen・・・。朝の電車でなければ、
魔女の視線を感じてなければ、
迷わず進むところだが、気なってしょうがない。
隣に座った女性は、もう微かな寝息を立て始めた。
あきらめて目を閉じることにする。
ただ、ほんとうはあきらめて、ではなくて、
魔女がぼくの夢を食らおうとすることを期待しているのだ。
目を閉じるとあっという間に彼女はぼくの意識の中に入ってきた。
---寝てはだめよ。
彼女はぼくにささやく。きょうはぼくのひざに乗ったりはしないみたいだ。
そして姿は見えない。ぼくの斜め後ろに立っている気配がする。
暗い井戸の底で、何かが蠢いているような声。
--その隣の女はあんたの夢を食べてしまうわ。
嘘だ。夢を食べるのはあんたじゃないか、
と言いたいのだが、言葉にはならない。
--寝なければいいの。目を閉じているだけなら問題はないわ。
彼女の吐息がぼくの首筋を撫でる。
2003/12/04のBlog
[ 18:26 ]
[ 電車の中の魔女 ]
本を読んでいるうちに、8時25分。ほんの少しの空席を残して電車が出発する。
ぼくの左隣と通路をはさんだ席はなぜかいつも空いている。
電車は5つ先までは各駅停車だ。そして最初の駅で、決まって魔女が乗り込んでくる。
彼女はぼくの正面か、左隣か、どちらかに座る。きょうは正面の席だ。
年の頃は35歳といったところだろうか。彼女の髪はソバージュ。
いつもとてもきちんとした高そうな洋服を着ている。
バッグはヴィトンやプラダや、ともかくそうしたブランド物のバッグを日替わりで持っている。
ただとても上品で、少しも嫌味ではない。顔さえ見えなければだけどね。
その顔は決して醜悪といった類の顔ではない。
細くてきれいに整えた眉。少し大きめの切れ長の目。
ただ、頬の肉がすこしたるんでいて、せっかくのちょっと上を向いたキュートな鼻がだいなし。
そして唇は両端がくるりと巻き上がっていていて、それが全体の印象を規定してしまっている。
でも魔女と気がつくまでは、そんなことも含めて彼女のことが気になっていたわけじゃぁないんだ。
ぼくの左隣と通路をはさんだ席はなぜかいつも空いている。
電車は5つ先までは各駅停車だ。そして最初の駅で、決まって魔女が乗り込んでくる。
彼女はぼくの正面か、左隣か、どちらかに座る。きょうは正面の席だ。
年の頃は35歳といったところだろうか。彼女の髪はソバージュ。
いつもとてもきちんとした高そうな洋服を着ている。
バッグはヴィトンやプラダや、ともかくそうしたブランド物のバッグを日替わりで持っている。
ただとても上品で、少しも嫌味ではない。顔さえ見えなければだけどね。
その顔は決して醜悪といった類の顔ではない。
細くてきれいに整えた眉。少し大きめの切れ長の目。
ただ、頬の肉がすこしたるんでいて、せっかくのちょっと上を向いたキュートな鼻がだいなし。
そして唇は両端がくるりと巻き上がっていていて、それが全体の印象を規定してしまっている。
でも魔女と気がつくまでは、そんなことも含めて彼女のことが気になっていたわけじゃぁないんだ。
[ 14:43 ]
[ 電車の中の魔女 ]
朝8時。平日の日は、きちんとその時間に2番線のホームに立つ。だいたい前から4列目。
T駅どまり、折り返しターミナル駅行きの電車が8分後に滑り込んでくる。
降りる客を降ろした後、一度扉が閉まる。
「整列乗車にご協力ありがとうございました」というアナウンスとともに、ドアが開き、
並んでいた人たちが、それぞれ空いた席に向かって急ぐ。
ぼくは座る席はほとんど決まっている。
前から4列目なら座る場所がない、ということは、まず、ない。
バッグからおもむろに本を取り出す。
2ヶ月前から読んでいる英語の小説。
なかなか前に進まないけれど、ともかく今は、英語の勉強に夢中なのだ。
T駅どまり、折り返しターミナル駅行きの電車が8分後に滑り込んでくる。
降りる客を降ろした後、一度扉が閉まる。
「整列乗車にご協力ありがとうございました」というアナウンスとともに、ドアが開き、
並んでいた人たちが、それぞれ空いた席に向かって急ぐ。
ぼくは座る席はほとんど決まっている。
前から4列目なら座る場所がない、ということは、まず、ない。
バッグからおもむろに本を取り出す。
2ヶ月前から読んでいる英語の小説。
なかなか前に進まないけれど、ともかく今は、英語の勉強に夢中なのだ。
[ 12:26 ]
