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2004/06/04のBlog
[ 17:29 ]
外の雨は、物語が終焉へと向かうのを助長するように次第にその雨音を大きくしていく。
そしてその物語の結末は決してハッピーエンドでは無い。
そう。僕と由紀の恋愛劇は決して大団円を迎える事なく終わるのだ。
一時の過ちで、雪山の頂上から転がり落ちた小石は次第に大きくなり何もかもを巻き込んで跡形も無く全てを捻り潰す。
諦めにも近い気持ちでそれをただ受け入れる僕。
ファウスト博士は若さを取り戻したいが故にその魂を悪魔・メフィストにささげたというが
僕の場合はそんな格好のいい理由でもなく本当に一時の過ちだったのだ。
降りしきる雨音が刻一刻と時の経つ音を告げるようだ。
由紀は僕のことを一生恨んでいくのだろうか?
それとも下らない男だったとあきれ返ってすぐに忘れるだろうか?
僕自身はどうだ?由紀のことを忘れるだろうか?
きっと忘れられないだろう。思い出すたびに後悔と懺悔で胸が張り裂けそうになるだろう。
でも、これだけは確かに言える。僕はまだ由紀のことが好きなのだ。
「…そうだよ。僕はまだ由紀が好きなんだ」
僕の呟きは雨音に消されユッコの耳には届かなかったらしくユッコは紅茶をすすりながら店内奥で演出用に流れている映画を見ていた。
映画の内容は皮肉にも由紀と一緒に観に行った「ラン・ローラ・ラン」だった。
恋人を救うために必要な10万マルクを20分以内になんとか工面しようとひたすら走り続ける少女の健気な姿が良いと由紀が絶賛していた映画だ。
「ごめん」
突然の一言にユッコはキョトンとあっけに取られた。
が、二言目を発することなく僕は席を立った。
気付けば降りしきる雨の中を傘もささずに走り出していた。
まるで映画の中の少女のように…。
2004/05/21のBlog
[ 17:03 ]
[ 嘘の誘惑 ]
3時か…まるで有罪判決をまつ被告人のような重苦しい気分のまま僕はユッコと水族館内を巡っていた。
綺麗にディスプレイされた水槽内を漂う熱帯魚や、グロテスクな強面の深海魚を眺めながらユッコは異様にはしゃいでいた。
そんなユッコに合わせようと必死で作り笑顔をするものの、間違いなくその表情はいびつにひきつっていたに違いない。
水槽を引き立たせるために薄暗く設定された証明が幸いしてか、その表情をユッコに悟られる事は無かった。
―…とは言ってもおそらく僕の落ち込んだテンションになんらかの疑問を持っていたには違いないだろうけど。
できることなら早く済ませてしまいたい。
悪いのは僕だ。由紀に殴られる事も覚悟している。
由紀…泣くかもしれないな。
愛くるしく身体を震わせているペンギンの姿も僕の目にはまるで入っていなかった。
刻一刻と迫る約束の時間。
一分ごとに自分を包み込む緊張感が高まっていくのをひしひしと感じていた。
気付くといつの間にか僕たちは水族館の外に出ていた。
ユッコが何か言って席を離れていったが何を言ったのか覚えていない。
あの日…あの誘惑に負けた僕を心の底から呪った。
呪ったところで何が変わるわけでもない。
そんなことはわかっていても何かに対して激しく感情をぶつけていなければおかしくなってしまいそうだったのだ。
よく晴れていたはずの空が僕の心境を察したのか、いつの間にかその表情を不吉に曇らせていた。
2004/05/14のBlog
[ 16:50 ]
[ 嘘の誘惑 ]
その日は、良く晴れた休日の午後だった。
由紀との件で鬱になっている僕を見かねてか、ユッコは水族館へ行こうと呼び出され、僕はこうして駅前でユッコを待っている。
待ち合わせは午後一時。
駅前は、休日の午後を謳歌しようと人で溢れ返っている。その中からユッコを探すが、彼女は見当たらない。
時間は五分前。そろそろ来るだろう。
思えば、最近はユッコに連れ回されてばかりだ。
独りになるとどうしても由紀とのことを考えてしまう。ユッコといるときも最初はそうだった。
こっちからは一度もユッコに会いに行ってはいないのに、まるで餌付けされたかのようにユッコはやってきて、僕はいつも連れ回される。
けれど、いつからだろう。
ユッコとの時間が楽しく思えるようになったのは。
おかげで、外に出ているときは周囲に対し普通に接することができるようになった。
時刻は一時一分前。
そろそろ来るだろうと思っていると、突然携帯が鳴った。
つい先日買った――正確には買わされた携帯を手に取ると、通話ボタンを押す。
「はい」
『もしもし』
受話器からは、懐かしくもあり――そして聞きなれた声がした。
どれくらいこの声を聞いていなかっただろうか。
前まではイヤでも聞かされたいた声なのに、こうやって聞くと改めて僕の中で彼女の大きさがわかる。
「由紀・・・」
『久しぶり。少し、話さない?』
「え?」
それは、思ってもないことだった。まさか由紀から連絡が来るとは。
いや、それ以上に驚いたのは由紀が僕の携帯番号を知っていたことだ。
多分高杉あたりにでも聞いたんだろう。
『考えたんだけど、ケジメって言うか・・・決着って言うのかな?付いてないよね。
あやふやなままバイバイなんて後味悪いマネしたくないでしょ?』
そうか。由紀は、僕と別れ話をする気で電話をしてきたのか。
―どうする?
考えるまでもない。
行くべきだ。
これが由紀と会える最後のチャンスかもしれない。
それに、僕は謝るべきだ。あのときの軽はずみな行動が、全ての元凶だったと。
だが、僕の左腕にはいつの間に来たのか、ユッコが抱きついて見上げていた。
そして、『まだ終わらないの?』といった表情を浮かべている。
『新しい彼女同伴でも良いよ?』
こっちの行動が筒抜けなのか、もしくは即答しない僕を見て今ユッコと一緒にいると言うのを察したのか、
それは僕の中ではすごく重い言葉だった。
由紀の中では、ユッコはすでに僕の新しい彼女ということになっている。
それは即ち、由紀にとって僕は昔の彼氏でしかないということじゃないか。
ここまで言われて、うなずかないわけいかない。
「わかった。場所と時間はどうする?」
「じゃあ三時に隣町の駅前でどう?」
隣町なら、ちょうど水族館があるのでこれから行くところだ。ユッコと水族館に行ってそ
のあと駅前に戻れば時間的にはピッタリだろう。
「わかった」
これが、僕と由紀が交わした最期の言葉だった。
2004/05/07のBlog
[ 23:36 ]
[ 嘘の誘惑 ]
昼の病院内はヒマを持て余す患者や見舞いに来る家族などで、比較的活気にあふれていた。
僕はすでに見慣れた203号室の名札を軽く見上げると病室のドアをノックした。
もちろん返事は返ってくるはずも無い。が、習慣とも言うべきか…しばらく返事を待ち静かに
室内へと入った。
春の日差しを窓から目いっぱい受け、部屋の中は明るく、心地よい匂いが溢れていた。
ベッドに横たわる由紀の表情も心なしか明るい。
由紀の顔を優しくなでながら、僕は枕元の花が新しいものに入れ替わっていることに気付いた。
「なんだ。ユッコのヤツ来てたのか」
来るなら来ると言えばいいのに。
まぁ、それが何よりもユッコらしいなと思えた事に僕は苦笑した。
僕は人形のように微動だにしない由紀の横に腰掛けると彼女のか細く、
ひんやりとしている手を両手で優しく包んだ。
「由紀・・・いつまでそうやって眠ってるんだよ」
かれこれ半年以上も寝たきりになってしまった由紀のこの状態にだんだん慣れて行く自分が嫌だった。
僕は彼女の閉じられた瞳をじっと見つめながら、またあの頃の思い出に浸って行った――・・・。
2004/04/30のBlog
[ 10:44 ]
[ 嘘の誘惑 ]
たった一度の過ちだった。
いや、過ちというのにはあまりに残酷な結果を生みすぎたのかもしれない。
この世に神がいるならば、少なくとも僕を見ていた神様は寛容な心を持ち合わせてはいなかった。
長いくちづけの後、鮎川の頭越しに見えたのは一人呆然と立ち尽くす由紀の姿だった。
「・・・由紀」
僕の言葉に鮎川も自分の後ろに立っている人物に気づいたようだった。
金縛りにあったように誰も身動き一つとらなかった。
そのとき確実に、何かが僕らを支配していた。
僕の頭の中が真っ白になって、口を開いてものどがかすれ思うように声がでなかった。
そんなとき、最初に口を開いたのは意外にも鮎川だった。
鮎川は僕の腕を取り
「こういうことなんです、朝比奈先輩」
と、満面の笑みを浮かべた。
由紀は鮎川の言葉を反芻するかのごとく僕と鮎川を見比べた。
「そ~ゆ~ことか・・・ふ~ん・・・・・・」
由紀は何に納得したのかそういうと僕に微笑んだ。
「お幸せに」
僕に、そう言って去っていく由紀を引き止める術などあるはずがなく、ただ由紀のうしろ姿をみつめるしかなかった。
あれから由紀と会っていない。
その姿すら見ていない。
避けられているのだろう。そうされても仕方の無いようなことをしてしまった。
・・・由紀と会いたかった。
会ったからと言って元の関係に戻れるわけでもないのはわかってる。
一言、謝りたかった。
しかし今、そのたった一言言う資格など僕にはない。その事実は僕に重くのしかかり、
少なくとも僕を鬱にするには十分な威力を持っていた。
この罪悪感は麻薬に近い。
寝ても醒めても由紀のことが頭について離れなかった。
いっそ全てを忘れてしまいたかった。
いや、願わくば全てなかったことにしたかった。
いつしか僕はそのことだけを考えるようになっていた。 そして・・・。
―・・・強く想えば願いは叶うらしい。
由紀が事故に遭ったという報せを聞かされたのはそれからすぐのことだった。
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