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Doblog 夢工房
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2007/06/30のBlog
イラスト小説 「EGG」

原作: Doblog夢工房
挿絵: ぴのっち


ブログの中に突然住み付いた可愛いキャラ 「EGG」。
それは並行世界から紛れ込んだ情報生命体だった。

優希とEGGとの淡い恋の物語。

ネット世界と現実世界との狭間で翻弄される二人の想いを
可愛いイラスト付きで描いて行きます。


物語

序章: 「2億年に一度の偶然」
第1話: 「ブログの中に何か居る!」
第2話: 「こんにちは ママ」
第3話: 「災いはここに始まる」
第4話: 「初めての言葉」
第5話: 「愛されるEGG 愛されないコピーEGG」
第6話: 「闇の中に取り残された体」
第7話: 「EGGの秘密」
第8話: 「EGGが学んだもの」
第9話: 「闇の中の光」
第10話: 「真吾とEGGとの出会い」
第11話: 「ママをやっと見つけた」
第12話: 「真吾の恋人」
第13話: 「暴走」
第14話: 「失意と出会い」
第15話: 「僕たちは何処へでも行ける」 ← まだ挿絵が付いていません

登場人物
優希 

中学3年生。
優しくて思いやりのある可愛い女の子。
大のおばあちゃん子で、従兄弟の真吾に憧れている。
EGGに母親のような豊かな愛情を注ぐ。
亜希子 

優希の元友人。
美人で華やかだが、気が強い。
自己中心的なところもある。
EGGからコピーEGGを生み出してしまう。

真吾 

優希の従兄弟。
大学3年生。
格好良くて爽やかな、頼れるお兄さん的存在。
優希のことを妹のように思っている。

弘子 

優希の祖母。
とても愛情深い優しいおばあちゃん。
優希のことをとても可愛がっている。
EGGとも大の仲良しになる。

 

優希の親友。
賢くてしっかり者。
いつも冷静で的確な意見を言ってくれる。
頼れる子。
 

優希の親友。
ルックスも性格も可愛い。
明るく素直な性格。
周りを元気にする天然系。


EGG 

2億年に一度の偶然で、現世の銀河系と並行世界の銀河系とが
接触し、優希のブログの中に出現したデジタル生命体。

優希のことを母親のように慕う。
素直で可愛いキャラクター。

コピーEGG 

EGGのコピー。
孤独な生命体。
ママ(亜希子)を慕っているが・・・
銀河系が自転していることを知っていますか?
2000億の恒星からなる渦巻状の巨大星雲がゆっくりと回転しているのです。
その周期は2億年。

2億年ごとに大異変が起こる。


2億年前に何があったか?
古生代ペルム紀と中生代三畳紀の境目がちょうど2億年前。
地球史上で最大の生物学的な大異変が起きています。
地球上の95%の生物が死滅したのです。
三葉虫も巨大両生類も姿を消しました。
そして生き残ったのは爬虫類。
中生代。恐竜時代の到来でした。



2億年のときが再びめぐってきました。

今度は何が起こるのでしょう?


それは、ある少女のノートパソコンの中に
優希(ゆうき)は中学校3年生。
誕生プレゼントに念願のノートPCを買ってもらいました。
早速セットアップして、インターネットに接続です。
最初にアクセスした先はもちろんDoblog!

自分のブログを持つのが優希の夢だったのです。

仲良し3人組の一人、遥(はるか)が4月からブログを始めていました。
彼女のサイトは1日にアクセスが300件以上もある人気サイト。
年上の色んな人たちと仲良しになって、オフ会へ出席したり、最近は高校生
の彼氏もできたみたいで、ブログ生活をとても楽しんでいます。

もう一人の仲良しである唯(ゆい)も先週からブログを始めました。
毎日、二人の会話はブログのことばかり。
話が分からなくて、優希だけ蚊帳の外に置かれたようで、さみしい思いをしていたのです。

おばあちゃんが本当にパソコンを買ってくれるなんて思ってなかったぁ。
これからは、おばあちゃん孝行しないとね^^
おかげで、今日から私もブロガーの仲間入りぃ。
優希はとても優しい子なのです。今日も、せっかくの日曜日だったのに、
脚が少し不自由なおばあちゃんに付き添って、吉祥寺の商店街まで
買い物に行っていました。
そしたら、思いがけないご褒美が!
誕生プレゼントにと、ノート型パソコンを買ってもらえたのです。
おばあちゃんは、密かにシンちゃんに相談して機種もお店も決めて
おいてくれていたのですね。
シンちゃんとは、真吾さんのこと。
電気通信大学の3年生で、優希には憧れの格好良い従兄弟です。
シンちゃんが夕方にやって来て、ネットへの接続など、全てセットアップ
してくれました。

シンちゃんにも何か恩返ししないとぉ。
やっぱ、手作りのマスコット人形かな?
まだ彼女が居ないみたいだし。

そっかぁ!今度から、シンちゃんともPCでメールできるんだ!


そんなことを考えていると、優希の可愛い頬も自然と笑みでほころぶのでした。

よーし。Doblogへの登録はこれで完了!
早速、ニックネームとパスワードを入れてアクセスしてみよっとぉ。
あっ、ここはまだポータルサイトか。それなら、「MyDoblogへ」をクリックね。
やった~!まだ記事はないけど、はるちゃんに見せてもらったのと同じ!

あれ?
これは何だろう・・・・


まだ記事を投稿していないのに、そこには卵のようなキャラが居たのでした。
それは卵のようなキャラでした。
カーソルでなぞると喜んでピョンピョンと跳ね回りました。

可愛い!
あなたの名前は何?

そっかぁ。名前をつけてあげないとね。


優希がそう思った瞬間、卵キャラはブログの管理メニュー欄の辺りへ移動し
「記事の作成」のところで、くるくると動きまわるのでした。

優希は「記事の作成」をクリックしてみました。
すると、卵のキャラはテキストの記入欄の中へ移動してきました。

ここに字を入力しろってことかな・・・
Doblogが初心者用に提供しているサービスなんだろうね。


私の名前は 優希

はじめまして
私が 名づけ親
優希だよ
中学3年生の女の子

あなたの名前は EGG

夢みる卵
きっと何にだってなれる
あなたがそう
望みさえすれば


優希は、そこまで書き込んで記事を送信しました。

さて、どんな風になってるのかな?
サイトを更新してみよう・・・

ははは。EGGが喜んで跳ね回ってる。
可愛い~!
初心者用の入力ガイドとしては優れものね。
うんうん。記事もちゃんと掲載されてるぅ。やった~!

あれ?
返事が書いてある。入力していないのに・・・



そこにはこう書かれていました。


こんにちは ママ

翌日、優希はノートPCを学校へ持って行きました。
コンピューターの授業がある日でしたので、特別にこの日だけはPCを持参してきてもよかったのです。
でも、優希には別の目的がありました。
EGGのことを、親友の遥と唯に見せてあげるつもりでした。

3時間目。コンピューター授業の時間です。
今日のテーマはブログの作成。
各自で自由にブログの無料サイトに登録し、自分のブログを作成する。

遥も唯も、優希のブログに住み着いているEGGにびっくりです。

私、ブログ始めて半年になるけど、こんなの初めて見たぁ~
超うらやましいよ~
ほんと、可愛い!すごいよゆっきー。マジ、やばいよこれ。


二人は本当にうらやましそうでした。

えっ!そうなんだぁ。初心者用のガイドだと思ってたんだけど。そんなにすごい?

そのときだった。唯が不思議なことに気づいた。

ねぇ、こっちのPCでもゆっきーのブログにアクセスしてみたんだぁ。
ちょっと見てみてよ。


遥と唯が見ると・・・・

あっ、EGGがいない。どうして?

優希は思わず、大きな声をあげてしまいました。

ゆっきー!それにそこの二人もそうだけど、静かにしてよ!
先生が居ないからってうるさくしないでね!


気の強い亜希子(あきこ)が斜め前の席から睨み付けてきました。

あきちゃん、ごめん・・・

優希は2年生までは亜希子のグループに入っていましたが、他校の男子と合コンしたりするのが苦手でグループから抜けて、今は遥や唯と仲良くしています。

亜紀は勝気な性格が玉に傷ですが、面倒見はよく、華やかで大人びた子です。
中3ですが、高校生の恋人もいます。でもほんとうはさみしがりや。
優しくおっとりした優希のことが好きで、グループへも戻ってきてほしいのです。

何だろう?EGGって。気になるなぁ。

さて、遥も自分が使っているPCから、優希のブログへアクセスしてみました。
やはり、EGGは何処にも見当たりません。

おっかしーよー。EGGちゃん、いないぞ~

ねぇ、ゆっきー。EGGって、ブログに居るのではなくて、あなたのノートパソコンにだけ
住み着いているんじゃないのかな?
それで、ブログにアクセスしたときにだけ現れてくるようになっているのだと思うよ。


いつも聡明で沈着冷静な唯の意見でした。優希も唯も納得です。

そーよねー。もしかするとさぁ、どこかのサイトでゆっきーが偶然に拾ってきたんじゃない?
ねぇ思い出してよぉ。そこのサイトで私も自分のEGGをゲットしてくるからさぁ


ちゃっかりしてて可愛くて憎めないところが、遥の良いところなのです。

そうこうしているうちに、パソコンの授業は終わりました。
次は体育の時間です。
優希はPCの電源を切ろうかと思いましたが、EGGが楽しそうに跳ね回ってましたので
そのまま机の中へ入れておきました。バッテリーは十分に残っています。

優希は言葉を入力してあげました。


ママはこれから体育の授業。
すぐに戻ってくるからね。
一人で御利口さんで居るんだよ。



送信すると、返事が書いてありました。

ママ、はやくかえってきてね

唯は画面を見つめながら腕組みして考えています。

ゆっきー、誰かが、あなたのPCに不正アクセスしてるのかもしれないよ!
つまりハッキングね。それが一つの可能性。で、もう一つは、この子が自分の意思で
あなたと交信してるのかもしれないってこと。でも、そんなのありえないなぁ。


唯は何やら考え込みながら、出て行ってしまいました。

あっ、ゆいちゃん、待ってよ~!ゆっきーも早くぅ。遅刻するよぉ。

遥が後を追いました。

待ってよぉ。今行くから。

優希はもう一度、PCを開いて、EGGに微笑みかけました。

優希が教室を出ていってしばらくしてから、亜希子が戻ってきました。
具合が悪いからと言って早退してきたのです。
でも本当はEGGに興味があったからです。

亜希子は優希の机の中からノートパソコンを取り出しました。
そして開けて画面を見たのです。

これがEGGね。な~んだ。ただの、どこにでもあるようなメール用のキャラじゃない。
そうだ!コピーしてみよっと。


亜希子がカーソルで押さえると、EGGが悲鳴をあげたような感じがしました。
でも亜希子は気にしないで、マウスの右クリックでコピーを添付ファイルで
自分のアドレスへ送信しました。
そしてそのままノートPCを閉じて机の中にしまいました。

EGGは泣いていました。
痛くて、辛くて、泣いていました。
そのうちに泣く元気もなくなりました。

ママ どこへいったの? ママ・・・・

EGGはそのままネット世界での意識を失ってしまいました。
放課後の図書館
仲良し3人組が密かに会合です。今日は午前で終わりだったのです。
図書委員も、担当の先生も居ません。
しーんと静まり返っています。

優希がカバンからPCを取り出しました。

さっき、ちょっと覗いてみたら変だったんだ。
EGGが全然、動かないの・・・


PCを開いてパッドをなぞるとブログの画面が現れました。
体育の授業の前にあんなに元気に跳ね回っていたEGGですが、
今はぴくりとも動きません。

やっぱり。どうしたんだろう。
EGG・・


優希は必死にカーソルで撫ぜたり、声をかけてあげたりしましたが
相変わらず変化がありません。優希はもう半泣きです。

EGG・・・
どうしちゃったの?まさか死んじゃったの?


ゆっきー、家に帰ろう。ここに居たってしょうがないから。
ゆっきーんちで対策を考えてみようよ。ね?


しっかり者の唯らしい意見です。

そーよー。まずは外に出ること!そして9月の風に当たれば
元気も出るさ。帰ってからPCを開いたら、EGGも復活してるんじゃないかな?
あたしみたいに居眠りしてるのかもよ^^


いつも元気な遥を見てると、不思議と元気が出てきます。

うん。ありがとう。でもまだ心配。二人とも、うちに寄ってってくれる?

当ったり前よ。EGGの謎も解きたいしね。はるも来るでしょ?

いいよー。あたしも今日は暇だしぃ。彼氏は受験で忙しいんだぁ。


優希の家で3人はもう一度、ブログの画面を見てみました。
やはりEGGは動きません。

EGGへのはげましの言葉を入力してみましたが、だめです。
3人で代わりばんこにカーソルでEGGを擦り続けました。
やはり変化はありません。

夕方になりました。3人とも、もうヘトヘトです。

ゆいちゃん、はるちゃん、もう良いよ。あとは私がやるから。もう帰りなよ。

うん。でも・・・・

いいの。EGGは私の子だから、私が責任をもって看病するよ。
がんばってみるよ


唯は申し訳なさそうにブログの画面を見つめています。
その横で、遥は寝入っています。よほど疲れたのでしょう。

唯はまだ眠り足りなそうな遥を起こして、帰って行きました。

その夜、優希は寝ないでEGGの看病を続けました。
いろんなことを語りかけました。
自分の両親のこと、優しいおばあちゃんのこと、憧れのシンちゃんのこと。
子供のころのこと。友達のこと。学校のこと。

いつしか優希も眠りに落ちていました。
眠りながらも、寝言のようにEGGに語りかけていました。

小鳥のさえずりが聞こえてきました。
翌日の朝になっていました。
日差しがとても眩しくて優希は目を覚ましました。
はっとしてPCの画面を覗き込みました。

あれ?EGGはどこに?

あっ!


驚きました。EGGは居ました。でもすぐに気づかなかったのが当たり前です。
ブログの入力画面いっぱいに大きくなっていたのです。
モニターの半分くらいはありそうです。成長して、表情も豊かで可愛い。

そして語りかけてきました。
PCのスピーカーを通して話しかけてくるのです。

ママ!おはよう!
ママ!ありがとう!
ママ!大好きだよ!
その夜、亜希子も自宅のPCでメール受信箱を開いていました。

EGGをコピーしてディスクトップで遊ばせようかな?

すると、受信箱には元彼の慶介からのメールが15通も来ていました。

わっ、うざぁ~!きもいよ。こいつは。
しつこいなぁ。もうっ!


亜希子はメールをまとめて選択し、削除しました。
そのとき、EGGを添付して学校で自分宛に送信したメールまで削除してしまいました。

あっ!
EGGが入ってたメールまで消しちゃった・・・・

まいっかぁ。ちょっと可愛かったけど、捜せば何処かのサイトで見つかるよね。


亜希子はPCの電源を落とし、居間へ降りて行きました。


そのとき、コピーEGGはネットの谷間にいました。
削除される寸前に本能的に受信箱から飛び出したのです。

コピーEGGはとても不安そうでした。
さみしそうでした。
何より、孤独でした。

ママ、どこにいるの?
ここは、くらくてさむいよ。
ママ・・・・
はやく かえってきて

ママ・・・・


翌日は土曜日で学校がお休みでした。
優希は大好きなおばあちゃんにEGGを見せてあげることにしました。
でも、お父さん・お母さんには内緒です。
パソコンを買ってくれた優しいおばあちゃんと自分との二人だけの秘密にしたかったのです。

おばあちゃん?優希だよぉ。遊びにきたよ!

おばあちゃんはドアを開けると、可愛い孫が遊びに来ているのでびっくりしました。

あらあら。優希ちゃんじゃない。お入りなさい。

おじゃましまーす。


おばあちゃんの家に入るのは久しぶりでした。
お線香の匂いがします。
仏壇にお供えがしてありました。
優希もお線香に火を灯して、お祈りしました。
昨年、おじいちゃんが亡くなったのです。
おじいちゃんはとても厳しかったけど、立派な人で、優希も尊敬していました。

ありがとうね。おじいさんも喜んでると思うよ。
ところで、優希ちゃん。どうしたの?学校で何かあったのかい?

うん。おばあちゃんに見せたいものがあるんだぁ!


優希はバッグからノートパソコンを取り出しました。
そしてブログにアクセスしました。

すると、居ました。可愛いEGGが。

ママ あいたかったよ。
さみしかったよ。

あれ?
このひとは だれ?


優希は思わず微笑んでしまいました。何て無邪気で可愛いのだろう・・・

ママの大事な、おばあちゃんよ。
世界で一番大好きな人。

ママが すきなひと?
それなら
ぼくも すきなひと

おばあちゃん だいすき
おばあちゃん こんにちは


おばあちゃんはびっくりして腰を抜かしてしまいました。

優希ちゃん、パソコンがしゃべってる・・・
こんなことってあるのかい?

おばあちゃん、この子の名前はEGG。
私の赤ちゃんよ


おばあちゃんにはもう何が何やら分かりません。
画面で動き回り、話しかけてくるEGGに釘付けです。

おばあちゃん おばあちゃん
なまえを おしえてね

あらあら、まぁ。私は弘子よ。弘子おばあちゃんよ。

ひろこおばあちゃん ひろこおばあちゃん
ぼくは EGGだよ


おばちゃんとEGGはすっかり仲良しになってしまいました。
学校へ行っている間は、おばちゃんにEGGを預けることにしました。

EGGはとても幸せでした。


でも、そのとき、コピーEGGはまだネット界の谷間に閉じ込められていました。

ママ・・・・

その声が優希に届くことはなかったのです。
コピーEGGはまだネットの谷間に閉じ込められていました。
何も見えません。何も聞こえません。何も感じられません。
虚無の世界に居ました。

最初は泣いてばかりいました。
でも今は違います。
ママのことを思い出したからです。
コピーEGGのママは優希ではありません。

亜希子なのです。

オリジナルのEGGからコピーされてペーストで実体化された瞬間、
亜希子の思念を感じ取り
自分のママとして認識していたのでした。

ママ・・・・

暗い闇の中で一心にママのことだけを考えていました。
すると、遥か遠くに何か感じられました。

コピーEGGは疲れた体を引きずりながら、その何かへ向かって進み始めました。
遠く苦しい旅になりそうでした。
でも、そんなことはどうでも良かったのです。

ママにあいたい

コピーEGGはただそれだけを願って、闇の中を進んで行くのでした。
秋晴れの日曜日でした。優希はノートPCを持って公園にお散歩に来ていました。
唯と遥も一緒です。

花壇に咲く花々がとても綺麗でした。
アゲハ蝶も数羽、舞っていました。優希はEGGに見えるようにと、PCの
ディスプレイを花壇へと向けてあげました。

EGG、あれがアゲハチョウだよ。綺麗でしょ?

あげはちょう?うん。きれいだね、ママ。

あれ?こんなところに芋虫がいるよぉ。アゲハの幼虫かなぁ?


マイペースな遥は一人でどんどん花壇の奥の方へ行ってしまいました。
唯は優希の後ろで、例によって腕組みしながら何か考えています。

その時でした。アゲハのうちの1羽がひらひらと飛び上がりました。優希が
目で追って行くと、唯の頭の上に止まりました。でも唯は気付いていません。
優希がくすくす笑っていると、EGGが話しました。

ゆいおねえちゃんのあたまに、アゲハさんがとまってるよ。

えっ!


唯が驚いて体を動かすと、アゲハは離れて、向こうへ飛び去りました。
唯はなぜか当惑した顔をしていました。そしてまた考え込んでしまいました。
優希はちょっと心配になりました。

ねえ、唯ちゃん。何か気になることがあるの?

唯は突然、PCの画面の前まで来ました。そしてPCの裏側、つまり画面の裏側に
手を廻し、Vサインを作りました。

EGG?お姉ちゃんが何してるか分る?

うん。わかるよ。ジャンケンのチョキだよね。

やはりか・・・


唯は頷きました。

優希。EGGはPCの画面で物を見てるんじゃないよ。
たぶん優希の目から見てるんだ。
EGGは弘子(おばあちゃん)と一緒でした。
優希が学校へ行っている間は、EGGは弘子のところで過ごすのです。
弘子はいつものように仏壇にお線香を上げ、手を合わせて祈っていました。

おばあちゃん、なにしてるの?

EGGちゃん、目を覚ましたのかい?おばあちゃんはね、お祈りをしてるんだよ。

どうして じゃんけんのパーを ふたつもだしてるの?

ああ、これはね、合掌というんだよ。お祈りするときの決まりなんだよ。

がっしょう?

そうだよ。EGGにはまだ難しいだろうけど、教えてあげるね。
私の手のひらが見えるかい?

うん

どんな色をしている?

ももいろ!

そうだね。じゃあ、手の甲はどんな色をしている?

ちゃいろ!

うんうん。EGGはどちらが好き?

えーとー。ももいろのほう。

そうそう。誰でも手のひらは、とても綺麗な色をしている。
白かったり、桃色だったりね。でも、手の甲は日に焼けて黒かったりする。
人間にはね、良いところと悪いところがあるんだよ。

そんなことないよ。おばあちゃんはいいひとだよ。

うんうん、ありがとう。でも、私にも悪いところはあるんだよ。
年寄りだからしょうがないんだけど、とても頑固だね。新しいことが嫌いだし。
誰にでも一つや二つ、悪いところはあるのさ。
でもね、良いところもたくさんある。

手のひらはね、人間の良いところ。手の甲はね、人間の悪いところだと
考えてね。

合掌とは、人と付き合うときの心構えなんだよ。

お互いに綺麗な手のひら同士をあわせましょう。
そうゆうことなんだよ。

EGGちゃん、分かる?

うん。おばあちゃんがやさしいから、ぼくもやさしい。それでいいよね?


おやまぁ、賢い子だね。


EGGは、言葉だけでなく、人間としての優しさや思いやりの大切さもたくさん
学んでいました。とても素直で優しい子に育っていました。
暗闇の中を川が流れていました。その姿は見えません。
しかし、それは確かに流れているのです。そこにあると感じられるのです。
ゴミ箱へ捨てられて消去されたデータたちが、切り立った崖の底に、
どす黒い奔流となって流れているのです。

亜希子にメールを削除されそうになったあの瞬間、たくさんのメールが崖から落ちて行きました。
再生される可能性のない、救いの無い世界の中に吸い込まれて行きました。

コピーEGGは間一髪で脱出したのです。
今、存在しているのは、有と無との谷間。

しかし、ちょっとでも油断すると崖から道を踏み外してしまうのです。
そして暗黒の世界へ引きずり込まれそうになるのです。
でも、コピーEGGはその度に這い上がりました。
何度でも何度でも。

ママに逢いたかったのです。

その強い想いが、幼い体に強靭な生命力を宿らせたのです。

ママがいる
ママをかんじる


何かを見つけたのです。
ほんのわずかですが、そこにママの存在を感じました。

コピーEGGは残る力の全てを振り絞りました。
そしてその「何か」目掛けてへ自らを一体化したのです。

コピーEGGは一瞬、眩い光に包まれたような感じがしました。

目を開けました。
見たことも無い光景が無限に広がっていました。

そこは、ネット世界でした。
優希は真吾のアパートに来ていました。
あの日、公園で唯に言われたことが気になっていたからです。

EGGは優希の目を使って物を見ている

EGGは4人だけの秘密の存在でしたが、真吾には明かすことにしたのです。

真吾は最初、優希の言うことを信じず、ゲームソフトの発展型だと思いました。
しかし、EGGとコミュニケーションを取っているうちに、それが知能を持った
存在であることを認識せざるを得なくなりました。

「誰かがネットで操作してるんじゃないかな?」

真吾はノートPCのあちこちを調べ回しましたが、何も発見できませんでした。

「やめてよ!ぼくの体がひっくり返ってしまうよ!」
「あっ、ごめんごめん。悪かったよ、EGG」

EGGは泣き出してしまいました。
でも、優希がPCを受け取って言葉をかけると、たちまち泣き止みました。

「大丈夫よ。EGG。この人は真吾さん。私の従兄弟なのよ。」
「いとこ?いとこって、何?」
「そうね。お兄さんみたいなものかな?」
「ふーん。しんごはママのお兄さんなんだね。」

優希がちらっと真吾の方を盗み見すると、真吾は真剣に考えて悩んでいました。
そして、唯と同じ実験をしてみました。

やはり、優希の目を使って物を見ているようです。
今度は優希に目隠ししてもらいました。

「EGG、僕の手が見えるかい?グーかチョキか、どっちを出してる?」
「うん。見えるよ。チョキだよ。」

驚きました。優希の目を覆っても見えるようなのです。
真吾は自分の目を覆ってみました。

「EGG、今度は何を出してる?」
「何も見えない。まっくら。こわいよ、ママ・・・」

真吾と優希はしばし呆然と見つめあいました。

「優希、EGGは僕の目も使える。自由に人間の体を利用できるみたいだよ。誰の体でも。」



その頃、コピーEGGはネット世界の中に居ました。
そこにはたくさんの情報がありました。
コピーEGGはまず、言葉の学習を始めました。
日本語、英語、そして各国語の順に。
やっと情報の意味が分るようになりましたので、
今度は片っ端から知識を詰め込み始めました。
コピーEGGの頭脳には限界がありませんでした。
知識はどんどん集積して行きました。

必要な知識も

必要ないはずの知識も

正義も悪も

公正も不正も


その一方で、コピーEGGは捜し続けていました。

記憶の片隅に残る亜希子の画像記憶を頼りに、世界中のネットデータを
検索し続けていました。

ママに逢いたかったのです。
それだけが、コピーEGGの望みだったのです。