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2008/06/22のBlog
[ 00:30 ] [ 余白から ]



かなりや 西條 八十

唄を忘れた金絲雀(かなりや)は、後ろのお山に棄てましょか。
いえいえ、それはなりませぬ。

唄を忘れた金絲雀(かなりや)は、背戸の小藪に埋めましょか。
いえいえ、それもなりませぬ。

唄を忘れた金絲雀(かなりや)は、柳の鞭でぶちましょか。
いえいえ、それはかはいさう(かわいそう)。

唄を忘れた金絲雀(かなりや)は、
象牙の船に、銀の櫂、
月夜の海に浮かべれば、
忘れた唄をおもひだす。

どうして かなりや は
唄を忘れてしまったんだろう


わたしは
かなりや は
忘れたんじゃないとおもう


唄うのが つらくなったんだとおもう
唄うのが 嫌になったのかもしれない


でも
唄いたかった

つらくても
嫌になっても

誰のためでもなく
何かのためでもなく

ほんとうは
かなりや自身が
唄いたかったんだとおもう


月夜の海で
月に映った自分のきもちを見て
こころを開いた かなりや



誰のためでもなく
何かのためでもなく
自分がそうしたいとおもったのだということを
時々忘れてしまいそうになって
つらくなったり
嫌になったり


そんなとき
この唄を口ずさんでみる





2008/06/16のBlog
[ 14:29 ] [ 書き出しの印象的な小説 ]
鏡 響子さん が推薦してくださったのは カフカ

ある朝グレゴール・ザムザが、気がかりな夢から目覚めると
自分が寝床の中で一匹の巨大な毒虫に変身しているのを発見した。

一瞬、ギョッとする書き出し
けれども、どこまでも冷静に文章は続いていく
次第に読み手は、最初の驚きから醒め
カフカの導くまま、異様な世界に踏み出していく

書き出しの一行だけ読めば、後は読まなくていい、と思わせるくらい
書き出しに全部が凝縮されているように感じます。

~鏡さんのコメント~

鏡さんが仰るように 『変身』 という物語は
「ある朝 いきなり虫に変わってしまった」
ある意味 それがすべて なのだ

読み始めて間もなく読み手は知る
(つまり、そういうことなのさ)とでも言うようなカフカの文章は
ところがそこに 美しい姫が現れて・・・
なんていう メルヘンチックな展開も
いやいや、やっぱり夢でした・・・
なんていう めでたしめでたし も
ありえないのだ、と

(そういうことになってしまったんだから仕方ないね) と
この異常事態を ガラスケースの中を観察しているような視線で
最後まで一貫して変わることのないリズムで沈着冷静に記していく



なぜだろう
読みながら思う
ほかの小説を読んでいるときと
カフカの小説を読んでいるときとは
読んでいる感じが違う


それがなぜなのか、なんなのか、わかりたくて
カフカ、すべてではないけれど
「変身」 「城」 「審判」 などの小説
日記、書簡、ノートなども読んでみた

翻訳のせいだろうか、と、訳者の違うものも読んでみた
けれども翻訳のせいではないようだ


その理由のひとつは
鏡さんのコメントがヒントになって
すこしだけ わかったような気がしてきた



~~*~~


TB記事を書いてくださいました。
いつもながら、鏡さんの歯切れのよい文章です。
ありがとうございました。

鏡 響子さんの記事


[ 変身 カフカ 訳 高橋 義孝  ] (新潮文庫)
[ 変身 カフカ 訳 中井 正文 ] (角川文庫)
[ 変身 他一篇 カフカ 訳 山下 肇 ] (岩波文庫)
[ 変身―カフカ・コレクション カフカ 訳 池内 紀 ] (白水uブックス)
[ 変身・掟の前で 他2編 カフカ 訳 丘沢 静也 ] (光文社古典新訳文庫)

[ 13:23 ] [ 書き出しの印象的な小説 ]
煙の男.さん が紹介してくださったのは
寺山修司 『はだしの恋唄』 に 収録されている
”星のない夜のメルヘン” から 『ポケットに恋唄を』

軽い男がいた。

歩いていると、ときどき軽すぎて体が少し浮くような感じがした。
気がつくと足が地上から少し浮いていた。

時おりおぼえる不思議な感覚
周囲や自分自身が薄くなっていくような感覚

孤独感、というのとは すこし違う
空虚感、というのとも すこし違う

このメルヘンの
「日ましに ”軽く” なってゆく」という症状と
どこか似ているような気がする


「軽い男」は
医者に診てもらったり探偵に調査を依頼したり
ポケットに花をつめこんだり
いろいろと手を尽くす

それでも どんどん症状は進んでいき
泣くにも泣けない、そんなとき
少女が男に話しかけた
少女が話すたびに男の胸に重みが貯えられていく

少女 「でも、ことばに重さなんてあるのかしら?」

軽い男 「わからない。だけどきみのことばは ぼくの重さになってくれる」

あたりさわりのない会話
ないよりはいいのかもしれないけど
そこに重さはないし、そこに色はないから
だんだん声が遠くなっていき
だんだん相手が薄くなっていく

薄くなっているのが周囲なのか自分なのか
わからないけれど、薄くなっている感覚だけが残る


本を読んだり
音楽を聴いたりしながら
こうして 言葉を残すようになった
そのうち 会話ができるようになった

それは、男が少女と話をすることで重さを貯えていったのと
すこし似ているかもしれない、と思う


「日ましに ”薄く” なってゆく」感覚が
すこしずつ ”遠く” なってゆくのを感じる 今日このごろ



『ポケットに恋唄を』 という 素敵なちいさなメルヘンは
「ことばに重さはないけど、愛には重さがあるのです」
という言葉で結ばれている


~~*~~


ステキな本を紹介してくれてありがとうございました♪
わたしにとっても大切な本になりました♪

煙の男.さんの記事

[ ひとりぼっちのあなたに・さよならの城・はだしの恋唄 寺山修司 宇野 亜喜良 ]
(新書館; 復刻版)