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人生玉手箱
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2008/02/07のBlog
毒入り餃子の事件が、マスコミの格好の取材対象になっている。中国
のメーカーから送られた製品は、複雑な流通経路を得て、スーパーや
コンビニ、あるいは生協の食品売り場から、消費者の食卓にとどく。そ
して、こともあろうに、有機リン系の毒性の強い殺虫剤が冷凍餃子に混
入した結果、食べた大人や子供達が中毒症状にかかり、ひどい人は
命を落とすことになった。退屈な国会中継を尻目に、お昼のワイドショ
ウは、どこもこの問題で持ちきりである。

毒はどの段階で混入したのだろうか。混入は意図的なものか。何かの
手違いで混じってしまったのか。日中双方の政府関係者、そして企業
自身も原因の究明に乗り出している。まるで、ちょとしたミステリー仕立
ての事件で、あること、ないこと、いい加減な憶測や、勝手な言説が飛
び交っている。まるで内田康夫の推理小説のような謎解きが、全員参
加の推理ゲームのように展開しているのだ。

内田康夫の小説を手にしたのは今から6年ほど前のことになる。近くの
古書店が店を閉じることになり、閉店クリアランスセールが行われた。
古くからの友人が推理小説のマニアで、文庫本が50円、100円で手に
入ると教えてくれた。多分、数十冊まとめて買ったと記憶している。とい
うのは、私事で恐縮だが、連れ合いがガンになり、築地の病院に入院
して手術を受けることになったのだ。小難しいものは駄目。肩の凝らな
い、後味の悪くない本がいい。

友人に相談すると、一もニもなく、内田康夫という答えが返ってきた。
理由は色々あったが、お前も読めるし、かみさんも読める。残酷でな
く、事件の社会的背景や人間関係がしっかり構成されていて勉強にな
る。そこで、ためしに読んでみて確かにそう思った。”『死者のこだま』が
いい”というと、友人は、それは内田の処女作だといった。結構中高年
フアンが多いが、社会派は社会派だが、松本清張とは少しスジが違う
かな、というのが友人の意見だった。「自分で読んでみれば分かるさ」
と面白そうに私の顔をみた。

音楽教育に若い頃から関与してきたかみさんは、あまり本は読まない
人だと思っていた。だが内田康夫の本は、かなりのスピードで楽しそ
うに読みこなしていった。何よりの効用は、狭い病室で、一緒に読んだ
本の内容を話題に会話することが出来たことかもしれない。最近読ん
だ『氷雪の殺人』(2007)は自衛隊がらみのミサイル防衛をめぐる汚職
事件が背景になっている。 どの作品も何らかの社会的、歴史的背景
がある。そうした背景をきっちり描くには、相当の取材があり、資料集
めがあり、勉強があるのは当然で、それが読む人の興味をひきつける
まで、深い知識として作品に結晶しているわけだ。

ただ、内田康夫を読みすすむと、読者には当然、それなりの影響が出
てくることも確かだ。それが困ったことにもなる。 かみさんは、短期間
で、すっかり浅見光彦流の推理思考が見についてしまった。我が家
は、NKという経済新聞とAという全国紙の二つの新聞を取っている。朝
それを取りに行くのは、私の日課だが、かみさんは新聞に細かく目を
通して、事件が起こると、自説を開陳するようになった。昨日もこんな
会話が我が家で交わされたのだ。

「お父さん、例の毒入り餃子事件、もしかすると裏があるんじゃない。」

キラキラ光る好奇心の目で、新聞記事から目を上げて、こちらを見て
いる。まるで素人探偵の浅見光彦が乗り移ったような感じだ。

「え、毒入り餃子のこと。裏があるって。」

「そうよ。JTとカトキチ、それに日清食品の3社による冷凍事業の経営
統合、白紙になったって、昨日のワイドショーで取り上げてたわ。今朝
の新聞にも出ているわよ。カトキチは、ミートホープ事件に絡んで、
食肉の産地偽装で問題になったでしょ。結局会社ごと身売りすることに
なったのよね。」

たしかにかみさんのいうとおり、JT(日本たばこ)がTBO(株式市場を通
じた敵対的買収)をかけてカトキチの経営権を取得することになってい
たはずだ。だが今度の事件で、日清食品がこの事業から手を引くこと
になった。かみさんの興味は、この経営統合の中止という事実の原因
が、中国毒餃子事件とどこかで交わる点があるのではないかと興味深
深なのだ。だから、目を皿のようにして、経済誌に目を通し、生きた社
会で起こっている事件の背景を、素人探偵のように探ろうとしている
のだ。

「分かってると思うけど、妙なことはいうなよ。近所の奥さんに。頭おか
しいんじゃないと思われると困るからな。」

かみさんは、むっとするように口を尖らせてこちらを見る。なぞときゲー
ムの楽しさに没頭することは、不治の病に冒されている、辛い苦しい現
実を、わずかに緩和する妙薬のような効果があるに違いない。でも、世
間知に長けた夫としては、釘を刺すのも、かみさんのためだと思ってい
るのだ。
2008/02/05のBlog
最近見た映画「アイアム・リジェンド」は衝撃的な映画でした。主役の陸
軍中佐はウイルスを研究する学者で、ニューヨークのセントラル・パー
クのそばの立派な屋敷に住んでいます。この陸軍中佐(ウイルスミス)
の相棒は、シェパードのサムでした。

21世紀に入って暫くしての出来事です。ニューヨークに、新種のインフ
ルエンザが入ってきます。ご承知の通り、SARSなどの鳥インフルエン
ザは強い毒性を持ち、感染すれば確実に命を失います。ワクチンの効
かない変異種が蔓延したらどうなるか。人口の密集した市街地では相
当数の人々が感染して亡くなることになるのです。そうしたウイルスが
ニューヨークに蔓延して、大勢の人たちがあっという間になくなってしま
す。有効なワクチンはありません。

空気感染で、市内の90パーセントの人々が死亡し、残り10パーセント
が人間性をなくしたゾンビになる。元のままの人間性を保つのは、わず
か0.2パーセントで、その人たちも、ゾンビの餌食になって、死に絶え
るという怖いストーリーです。ニューヨークでは、残ったのは細菌学者と
その忠実な友、サムだけということになります。中佐は、ゾンビを捕らえ
ては、血清を作るための実験を繰り返しています。

ある日、運悪く、自分が仕掛けたワナに自分がかかって、宙ずりになっ
てしまいます。何とかナイフで紐を切って下に落ちるのですが、今度は
ナイフで自分の太ももを刺してしまう。たそがれが真近になり、ゾンビと
ウイルスに感染した狼が襲ってくる。主人を守ろうとしてサムは勇敢に
戦います。でも相手は大勢です。最後には、とぷうとう力尽き、咬まれ
て負傷し、動けなくなります。

傷付いた足を引きずりながら、中佐はそれでも何とかサムを家につれ
て帰り、治療をしますが、サムの眼と歯肉を確めて感染は間違いな
い。意を決してサムを安楽死させるために注射を打とうとする。一瞬躊
躇して震える中佐(ウイルスミス)の手。そのシーンは胸を打ちました。

サムが亡くなり、ウイルスミスはたった一人になってしまいます。自暴自
棄になった中佐は、夜の埠頭に出かけ、ゾンビの大群と大立ち回りを
演じますが・・・。それからの話は、見てからのお楽しみということにし
て、まあ、犬と人間の関係は、深い信頼と友情で結ばれているのは良く
分かりました。

考えさせられたことは、人間の命ということです。もちろん生きている人
間の命です。自分の信頼すべき友、犬のサムをいとおしむ命です。言
葉は通じないのに中佐を守り戦うサムの命です。人と犬は生き物として
種類は違っても、気持ちは通じ合っている立派なパートナーです。

この映画を見て、命のつながりを大事にするというエコロジーの考え方
が、少しだけ分かるような気がしました。
2008/02/03のBlog
玄関を開けて郵便ポストに手を差し込み、すばやく二種類の新聞を
取り出す。毎朝繰り返される反復的な作業ですが、今日は新聞に手
をかけたとたん、犬を連れた品の良い年寄りの姿が目に飛び込んで
きました。ハンチングを被り、ブランド物の長袖シャツを着ている。
茶系統のチェックの模様は、英国のバーバリーのような感じです。
ゆったりとしたズボンはグレー系の厚手のウール地で出来ています。
どこから見ても落ち着いた英国風シニアのいでたちなのです。

そのシニアが持つ紐の先には、毛足の短いテリアのような小型の犬
がいて、立ち止まったその人物にあわせるように、四角い顔をこち
らに向けて、不思議そうに私を見ています。時間は早朝の6時ごろ
の出来事です。その犬の正式な種類は、テリアではないと後で教え
てもらったのですが、歳を取ったせいで何度聞いても覚えられない。
そんな自分が歯がゆく思われました。そして、心の片隅では、この
老人とテリアの組み合わせほど、絶妙のものはないと感心していた
のです。一体誰がこんなに上手にコーディネートしたのだろうかと。

私という人間は、好奇心が強く、疑問に思ったことを確かめずには
いられない性格なのです。だから、それから暫くして最寄の駅のそば
で、小さなバイクに跨ったヘルメット姿の人物を見かけ、それが彼
だと分かったときは、余計に好奇心は強くなりました。あんなにも
センスの良かった彼が、そのときはありふれた灰色の作業衣を着て、
駅の駐車場に向かっている。まるでどこかの小さな町工場の親父さん
といったいでたちです。もちろん、彼は私が見ていることなど知る
よしもない。

愛犬を連れた散歩のときのなりと、作業衣姿の今の姿には、大きな
落差があり、その理由が分からない。何とも落ち着かないのです。
勿論、私もシニアだし、分別もあるので、駅の近くでご本人を見か
かけたなどと口に出すことは一切しない。ただ、毎朝、新聞受けで
二種類の新聞を取リ出すとき、時間を量ったように現れる犬と老人、
いや年寄りと犬に向かって「おはようございます。」と明るい声を
かけるだけのことで、何も起こらず、月日は流れていきました。

そんな風にとぎれることなく朝の散歩は一年も続いたでしょうか。その
犬を連れた爺様の姿が急に見かけなくなった。最初はどうしたのかと
不思議に思い、そしてだんだん心配になってきます。そんな時、いきつ
けのジムで、そのおじさんの姿を見かけました。ゴルフの練習道具を
持った爺さまに、思い切って尋ねてみました。愛犬との散歩はどうなり
ましたかと。すると、その年寄りの目は、みるみる涙で一杯になり、愛
犬に先立たれた辛い顛末を一気加勢に話し出したのです。

食欲がなくなり、食べても戻してしまうようになった。私は知らなかった
のですが、その犬はかなりの高齢で、加齢に伴う衰弱が一気に表面化
したのです。お年よりはあわてて犬の専門病院に連れていって、何度
も注射してもらった。でも効き目は現れず、とうとう立てなくなりました。

その歩けなくなったサイモンを抱えて、最後に病院に通った日、両手で
彼女を抱きかかえて家に戻る途中でした。いつもの散歩コースの途中
に公園がありそこへやってきました。木々の間から青い空がよく見える
ロケーションで、そこへくるとサイモンは立ち止まり、空を見上げるよう
に上を向きます。そこはお気に入りの場所だったのです。

その日、彼女は、身を起こすように空を見ました。そして一回大きく
息を吸って、それきり動かなくなりました。呼びかけても呼びかけて
も返事はない。愛犬は子供のいないその爺さんにとっては、かけがえ
のない家族の一員だったのです。言葉は通じなくても、気持ちはしっ
かり通じ合っていた、紛れもない家族だったのです。


2008/02/01のBlog
実名で参加しているSNSの日記に、友人の一人のレスポンスが届い
た。人間と犬のよき関係を示唆する興味深い倫理指針が添えられて
いた。もっとも、誰かが書いた英語の文章に、分かりやすい日本語の
訳が付いたものが、ウェブ上で公開されている。コマンドメントはもちろ
ん、モーゼの十戒のことで、人間が人間らしく生きるために、神が人間
の代表モーゼに啓示として与えたことになっている。

神はわたし一人だよ(唯一紳)。親を大事にしなさい。嘘を言ってはなり
ません。人のものを盗んではいけない。・・・人間が共同生活を送る上
で必要な原則が述べられていて、いまでもキリスト教徒の生活の基本
原則になっている。

このコマンドメントをもじって、人と動物が仲良く共同生活をするために
必要な原則を、教訓的に書いていて興味は尽きない。多分書いた人物
は、共通の言語をもたない人と犬が、よき友として生きるために必要
な、心得ておかなければならない知恵を文字化して残してくれたように
思う。教養がありウイットが行間ににじみ出ていて、ほのぼのとした気
持ちになった。ちなみに興味のある友の為にURLを下に転記しておき
ますので、参考にしてください。


http://www5.ocn.ne.jp/~select/Ten-Commandments.html
2008/01/30のBlog
「ワンちゃんにも還暦があるのですか。」

家の前の細い通りを犬をつれた中年のご婦人が通る。
小柄な奥さんに、小柄な犬。多分柴犬なのだろう。
赤いベストを羽織っている。雪が降りそうな空模様だ。

ご婦人は目を真ん丸くしてこちらを見る。首輪からのびた
細めの紐を奥さんが持っているのだが、その犬までこち
らを見ているからおかしい。

「ドッグ・イヤーって知ってますよね。犬は人間の5倍
のスピードで歳を取るんですよ。ご存知ありません。」

思わず言葉が出た。期待した反応とはちがったもの
に戸惑ったからだろう。

「この子14歳だから。その計算で行くと70歳の古希
になります。ずいぶんおじいさんなんだ。」

「そうか。じゃあ赤いちゃんちゃんこは2年前の12歳
のときにあつらえたんですね。」

赤いベストが気になって、ジョークを飛ばしたんだが、
反応のスピードがずれている。奥さんはまともな人ら
しが私のペースではない。にこりともしないが、でも感心
したようにうなずいている。悪い感じではなさそうだ。

柴犬は本来神経質で、よくほえる。でも赤いベストを着
たこの犬はほえたりはしない。よっぽど飼い主が上手く
世話している証拠だろう。ベストは還暦の祝いではない
のかもしれないな。でも奥さんはおおらかな人。軽く会釈
して前を見て歩き始めた。しあわせな犬とご主人に出会
った雪の降る朝(あした)。